とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

我らがパラダイス〜を読んで

図書館で予約していたのがやっと順番が回って来ました。
予約を入れたのはずいぶん前だったので、ほとんど忘れていました。
図書館だと、人気のある本はよくこういうことが起こるんです。
ただ今回は、丁度「下流老人」を読んだ後だったので、ほんとタイムリーでした。

予約を入れた時は、著者が自分のお母さんを介護施設に預けるに当たって、色々と調査をした、という部分だけ、書評で読んで予約したので、てっきり、その介護についての体験エッセイ、だと思っていたのですが、違いました。

ちょっと残念、そういうのを期待してたんですけど。
私は、彼女の作品は少々苦手で、どちらかというとエッセイの方が好きなのです。

でも、せっかく借りて来たのだし、読んでみました。
予約を入れている人も多いので、早く返さないといけないし。

三人の同年代の中年女性が主人公となって、三つの話がそれぞれに語られていきます。
三人はそれぞれに介護の必要な親がいて、それぞれに事情がある。

そして、介護の問題で苦労し、やがて追い詰められていきます。

一方で、格差社会を象徴するような超高級老人ホームが出て来ます。
そこが三人の職場でもある。

実際の介護の大変さとか、介護する人の苦労や辛さ、苦悩がよく描かれています。

特に、気が弱くて事なかれ主義な兄(弟)と気が強くてしっかり者の女性主人公がやりあう場面とか、嫁と姑、小姑との間にたちこめる、なんとも言えない苛立ちとか、そういう場面を描くと、いつもながら、この人は上手だなぁと思う。

介護の現実、大変さ、行き場のなさも。
他人事では済ませられない、切迫感、現実感もさすが直木賞作家です。
しかもすごく勉強されてます。

小説では、それぞれ置かれた状況はどんどん悪くなり、介護で追い詰められた主人公たちは、突拍子もない行動に出ます。
そして、あることをきっかけに一気に破綻を迎え。

とストーリー展開もスピード感があって、どんどん進む。

主人公の一人が、職場である超高級老人ホームに、自分の親を住まわせる、という暴挙に出る時点で、おいおい、どうするんだこの結末?と思いましたが、最後もなんだか小説ならではの終わり方。

面白いけど、あんまり現実的な問題解決にはなっていないような気がする。

問題提起、という点では下流老人よりは、切迫感があってよりわかりやすくはあると思う。
数字の羅列や、グラフ、表といったものを見ると、拒否反応が出てしまう人には、こちらの方がとっつきやすそう。

読んでいくと、人生について考えさせるような文章が、ふっと出て来て、胸を突かれます。

個人的には、
「子育てももしかすると復讐される、ということかもしれない。ちゃんと育てることができなかった過去の自分に、未来の自分が復讐されるのだ」
という部分に、どきっとしました。

実際、子供がいても、介護をあてに出来るとは限らない。

「親の介護などというものは、みんなこんなものであろう。雑誌の特集でやるように、
『将来を見通して』
などということが出来る人が何人いるのだろうか。次から次へと災難が降ってかかる。いや人生の順番そのものがうまくいかないようになっているのだ」

「心の優しいものが逃げ遅れて介護をやる羽目になる。そして、優しい分、逃げた他の家族を責めることもできずに、独りで背負ってしまう」

そんな文章が身につまされます。

介護って、始めるときはなんとかなりそうでも、実際やって見るとすごく大変。
実際、義理の両親は、それでうまく行かなくなったようなものです。

読み終わって、結局、なんとも言えない気分になりました。
私たちも今現在、まだ未完の小説の中にいて、先の見えない結末に向かって進んでいくしかない、という気分です。

うまく、ハッピーエンドに持っていけるように、それぞれが努力するしかないのかなぁ。