とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

忘れられた巨人

テレビを見ていたら、イギリス人作家カズオ・イシグロノーベル文学賞を取った、というニュースが流れていました。

えええっ!?
びっくりです。
実はカズオ・イシグロは前から好きな作者なのです。

日の名残り』は、20代の頃に母が「面白いよー」と言って勧めてくれたのですが、当時の私には、ちょっとトーンが合わなくて、読みこなせず。
40代に入ってふと読んで以来、すっかりファンになり、以来新しい本が出たら必ず買ってます。
どの作品も大好きです。
と言っても、翻訳本ですけど。
一度、原語に挑戦したけど、この人の英語って難しいの。なんでここに名詞?動詞?置いていいの?というようなところに名詞とか動詞があったりして、自由自在な感じ。
ネイティブでもない私には、かなり荷が重かった。

それにしても贔屓の作家さんが評価されると(って、もともと有名な作家さんだし、あの村上春樹もファンらしいので、私ごときが贔屓にしていても、たいしたことはないのですが)なんだか嬉しい。

「あたしねぇ、この人、知ってるんだよ〜」というようなちょっと自慢したい気分、ですかね。

『忘れられた巨人は』彼の最近の作品。
アマゾンでのレビューでは、翻訳が酷評されていたけど、普通に面白く読めます。
今までのカズオ・イシグロ作品に比べたら、逆に話が前後したり、あちこち飛ばないし、ストーリーもシンプルで読みやすいかもしれないです。

ストーリーは、騎士や魔法使いが住んでいた頃(という設定の)イギリスの世界。隣村に住む(はずの)息子に会うために旅に出た主人公夫婦は、旅の途中で出会った戦士や曰く付きの少年と道連れとなり、龍を探して倒すための冒険の旅をすることになっていく。
というクエストものです。

でも、その主人公が年中、物忘れに悩んでいる認知症(?)の老夫婦だったり、勇者も関節痛もちの老人だったり。
主人公たちが住んでいるところも、なんだかホビットの家みたい。
そのせいか、あまり殺伐とした手に汗握るような戦闘シーンはなく、どことなくほのぼのと話は進みます、、、というように見せかけて、実は全然違う。
あまりに日常的に繰り返される暴力と悲劇が、ベースギターのような低音で流れる中、主旋律であるストーリーが語られる、そんな感じ。
もともと、ミュージシャンだったという作者には、ギター奏者が主人公の短編小説もありますが、この作品も読んでいる間中、静かな音楽が流れているような印象があります。

冒険の末に、ついに見つけた龍の思いがけない姿、実は人々に害を及ぼしていると思われていた龍の隠された役目、主人公たちの真実の姿。
明らかになる残酷な真実。
そして不思議なラスト。

私は、繰り返されるテロと、異民族に対する差別や偏見を、未だに解決できない現代に対する一つの提言、と受け取りました。

発表された時には、賛否両論を巻き起こしたそうです。
前の『私を離さないで』も色々、言われていましたっけ。
穏やかなトーンで、穏やかならざることを語る作者。
というのが感想です。

ちょっと独特な文章の流れが特徴の作者なので、初めて読むなら『忘れられた巨人』が、舞台設定がよくあるクエストものファンタジーみたいなので、話の展開にもついて行きやすくていいかもしれません。

秋の夜長の読書に、いかがでしょう?
私もまた読み返してみよう、と思います。