とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

湖畔荘〜を読んで

カテゴリーでいうと、ミステリーでしょうか。
一族の隠された暗い過去が、現代と過去と舞台を変えながら、それぞれの時間軸で生きた女性の目を通して語られます。
そして、最後に現代と過去が繋がり、真相が明らかになる、という構成。

第一次大戦前後から、現代に至るあるイギリス貴族の話です。
イギリス貴族の生活は、N.H.K.でやっていた”ダウントン・アビー”みたいな感じかな(見てないけど)。
作者さんはオーストラリアの出身の人だそうで、そういう他所さん出身の人の方が、憧れもあって古き良きイギリス、が書けるのかもしれません。
イシグロカズオも最初の頃は、日本を舞台に書いているし。

そこにアガサ・クリスティ色が加わって、一見恵まれた幸せそうな家族の隠された暗い過去、みたいな話もあり、児童文学っぽい感じもあり、とてんこ盛りです。
さらに、古くて新しいPTSDの問題も取り上げられていて、それが事件の大きな要因となっています。

PTSDといえば、以前、ある作家さんがエッセイに「昔よくいた『雷親父』というおじさん達は年代から考えると、PTSDを抱えた復員兵だったんじゃないか」という話を書いていて、なるほど、と思ったことがあります。
あの、ランボーだってPTSDのせいで、アメリカの田舎の街一つ燃やしちゃったんでしたっけね。

主人公の一人であるエリナを、子供時代からずっと見守っていて、彼女を主人公にファンタジーを書く老人は、どう考えてもルイス・キャロルがモデルですね。
彼の書いた作品は、現在では古すぎてもう顧みられることはない、という設定ですが、その作品が本の中ではちょくちょく出てきて、いい感じに伏線となっています。

話は1933年、コーンウォールのお屋敷で一人の赤ん坊が行方不明になったことから始まります。
子供はそのまま見つからず、屋敷はその後打ち捨てられて70年経過。
ある日たまたまジョギング途中に通りかかり、興味を持った謹慎中の女性刑事セイディは、暇つぶしもあって調査を始めます。

当時を騒がせた事件だけに、新聞や本にもなっていて調べ物には事欠かない。
地元の図書館には、やけに協力的な司書さんはいるし、セイディは学歴はないけど、実は頭の切れる敏腕刑事。
そのうち、当時の警察官だった退職刑事にも会えたりして、調査はなかなか順調。
でも、謎はどんどん深まるばかり。

事件とは無関係ながら、セイディ自身が抱える過去もちょくちょくと、そもそも敏腕刑事で仕事の鬼の彼女が、なぜ謹慎中なのか、その謎もまた一つの謎として見えがくれします。

並行して、現在生存している一家の娘たち(もう、いい加減に良いおばあさん)が出てきます。
一人は、著名な小説家になっている。
過去の時代では、そのアリスがその湖畔荘と呼ばれる屋敷を、ものすごく愛していて、一生住み続けたいとの願っていたはずなのに、なぜか現代の彼女は屋敷を荒れ果てるに任せて、一度も訪れていない。
その上、セイディが新しい発見があったので、ぜひ屋内を調査したい、と言って来ても、頑なに無視します。
アリスも実は、何か事件の鍵を握っているらしい。

事件を解く鍵は、当時の人の手紙。
何しろ持ちの良い人達だったみたいで、手紙がやたらと残されている。
手紙って、受け取った人の分しか普通わからないのだけど、今回は、なんと事件の中心人物である差出人が自分の手紙をちゃんとコピーして残してます。
おかげで、現代にいるセイディたちにも、事件の全容がわかるわけです。
イギリスの上流階級の習慣を知らないので、そういうものなのだよ、と言われたら、そうですか、と引き下がるしかないけど、エリナさんてば、愛人宛の手紙のコピー残しておくとかって、無防備すぎないか?
結局、あとで、誰かに見て欲しかったのでしょうかね。
例えば、自分の娘とか?
いやいや、私だったらさすがにそれは出来ないな。
ちょっと生々しすぎる気がします。
それは私が日本人だからかしらん。

そんなこんなで、話は過去と現代を行き来しながら、事件発生から第二次世界大戦を経て、だんだんと現代に収束していきます。

この辺で、なんとなくオチが見えてくる。
何しろ細かいヒントが、随所に散りばめられているのですもの。
読み終わって、やっぱりこう来たか、というような、ジグゾーパズルの全部のピースがちゃんと綺麗にはまったような読後感があります。


主題となっているのは、『子供を手放した母親の話』なんだけど、もう一つのテーマは、『時間は薬になる』ってことかな、と思いました。