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銃・病原菌・鉄(上)〜を読んで

”バーナード嬢曰く”で町田さわ子が『読んだふり』をしていたので、そういえば、以前評判になっていたな〜と思い出し、図書館で借りて来ました。

当時のアマゾンレビューを見て、読んだ気になっていました。
まさに町田さわ子的『ちゃんと読んでない』状態。

反省して、真面目に読んでみると割と面白かったです。

人類の文明の発達となった要因をいくつか考察している本です。
そして、文明の発達から科学、経済の発達の地域差が何故生じたのかを著者独自の視点から展開しています。
最終的には、現代においてヨーロッパ文化が世界を牛耳ることになった理由を考えています。
著者は、ヨーロッパ文化が現在を仕切っているのは、別にヨーロッパ人が優秀であったせいではない、としつこいほどに強調してます。
けっこう、欧米では批判されたのでしょうね。

ともあれ、たまたま地政学的に有利だったから、という説にはなるほど、という気がします。
別に、ヨーロッパ人種が特別優れていたわけではない、という説は今更言われんでも、と思うのは私がアジア人種だからですけど。

さて本はまず、世界中に人類が拡散したところから、スタートして世界の様々な民族の特性の違いや、インカ帝国を支配したスペインの話が出てきます。
この辺りで、なんだかどこかで読んだような話だと思ったら、離島研究の本にあった話とよく似て言いました。

島と島、大陸と大陸、スケールは違いますが、長〜い目で見たら同じようなことみたいです。
つまり、ある大陸(ユーラシア)では家畜に適した大型哺乳類が何種類もいて、農耕に向けて改良しやすい植物がたくさんあったけれど、別の大陸(南北アメリカ、オーストラリア)ではそこまで恵まれなかったため、農耕が発達せず、それでその他の技術が発達し損ねて、そのため最終的に世界征服競争に負けてしまったのだ、という説です。
間に海があるせいで、一つの大陸で生まれた技術なり文化が、別の大陸に伝わることが難しくて、そのため、別々に発達せざるを得なくて、近世になって、お互いが出会った時にはその差が大きくなっていた、ということですね。
ユーラシア大陸も、広くてヨーロッパとアジアに分かれるけど、そこはざっくりひとまとめになっていてます。

第二部で、まずは食糧生産の違いについて話が始まります。
なぜ人類は『栽培』という方法を発見したのか?
という話。

たまたま、『栽培』に適した植物が生えていたから、と言ってしまえばそれまでなのですが、『栽培』に適した植物というのは、自然界では繁殖できない突然変異種なのだそう。
実った種が勝手にばら撒かれずに房のままでまとまっているとか、毒のある成分を作らない、とかですね。
だから、普通の状態では滅多に見つかりません。
あっても一代限りだったり。
たまたま出てきた変異がちゃんとその性質を次の代にも継承される植物がいて、それが人類のお口にあっていて、栄養にもなって、初めて『栽培』種になるのだそう。
そういう特別な変異種が、多種生えていたのがユーラシア大陸でした。
もちろん、アメリカ大陸にもアフリカ大陸にも植物はたくさん生えていたけど、人類の利にかなう植物は少なかった。
さらに、『栽培』可能な植物が伝播する=人類が農耕生活を広げられるためには、東西に広がっていることが必要でした。
それはそうですよね、同じような降水量や気候でないと、植物は育ちません。
改良には長い年月がかかります。

そして、さらに人類が農耕や牧畜を始めた頃に、ちょうど頃合いの家畜に適した哺乳類が、これまた数種類存在していたのがユーラシア大陸
家畜に適した性質の哺乳類って実はすごく少ないのだそう。
キリン、ライオンは言うに及ばず、シマウマも、カバも家畜にはできないそうです。
象も実は、野生種を訓練することはできても、家畜として繁殖することはできていないのだそう。

そして、一番大きな要因。
それが、感染症
家畜を飼うことで、元は家畜だけの病気だった感染症が、人間にも感染するようになります。
結核も、天然痘も元はと言えば、人間以外の哺乳類の病気だったそう。
最近でも、エイズとかエボラとかインフルエンザとか、ありますね。

その病気は、大抵は致命的でした。
けれど、長い歴史の中で人類も病気に対する免疫を身につけます。
ついでに治療法も。
でも、アメリカ大陸や、オーストラリア大陸の人類はそういう免疫を身につける機会がありませんでした。
実際、大航海時代ユーラシア大陸から人間が他の大陸に行くと、疫病が大発生して、たくさんの先住民が亡くなっているそうです。
実は、戦争が始まる前に持ち込まれた病原菌(ウイルス)で、先住民はやられてしまっていたのでした。
と言うのが、著者の主張する点。

確か、島研究の話でも、島固有の自然体系というのは島独自のもので、外部から別の動植物が持ち込まれると、あっという間に消えてしまうのが問題だ、と言われていました。
同じことが、人類レベルですでに起きていたのですね。

じゃあ、なぜ、ユーラシア大陸の人類は他の大陸から同じように、その土地特有の感染症にやられてしまわなかったか?
というと、家畜の種類が他の大陸では少なくて、感染症がそれほど多くなかったから、だと著者は言います。

なるほど。

でも、全然家畜がいなかったわけじゃないので、ちょっと怪しい気もする。
多少は影響してたかもしれないけれど、それより、運搬に適した家畜(馬とか牛とか)がいたおかげで、車輪の発明から、輸送方式などの発達=軍備の充実が、他の大陸文明と比べて有利になれた理由、という方が大きいような気がする。

そういえば最近は交通の発達に伴って、エボラ出血熱のように致命的な病気がアフリカから入ってくるようになりましたから、先のことはわかりませんね。
もしかしたら、アフリカから持ち込まれたエボラ出血熱パンデミックで、欧米やアジア社会の人口が、激変または絶滅してしまって、数百年後には別の歴史書が書かれているかもしれない。

ヨーロッパがアジアに比べて戦争に長けていたのは、統一された大国が生まれてこなかったせいで、常に競争があり、様々な発明がされやすかったから。
人間は、そちらの方が理にかなっていると思えば、敵の文化でも抵抗なく吸収します。
そのことを著者は、鎖国状態からいきなり開国してあっという間に軍備を充実させた日本や、ニュージーランドの部族に広まったマスケット銃を例に挙げて説明しています。
そこんとこはわかりやすい。

まとめ、ユーラシア大陸は他の大陸と比べて、地勢的な点と植生、動物分布の点で恵まれていたので、農耕と畜産が発達し、それで色々な文化や技術が発達できた。
アジアとヨーロッパは同じ大陸内にあったのに、ヨーロッパが勝ったのは、ちょっとした偶然の重なりのおかげでしかない。
最後の部分は、欧米の知識人には衝撃だったかも。
それも、アメリカ人の大学教授が、言ってるわけだし。


ちょっと重箱を突く的なこと。
ネアンデルタール人クロマニヨン人によって絶滅させられた、という説。
これは、最近両者が交雑していた証拠が見つかりました。
最近の発見らしいので、この本を書いていた時点では知らなくて当然かもしれないです。

なんだかんだ言って、実は病原菌がユーラシア大陸人の世界征服を可能にしたのでした、という説。
そしてそれには、家畜化の歴史や農耕の歴史が関わっていたのです、という説、は面白かったです。

そういえば、火星人も圧倒的な軍事力を持っていたのに、地球土着の病原菌にやられてましたっけね。

突っ込めば、色々無理のありそうな説ではありましたが。
さらに詳しいことは下巻にか書かれているのでしょうか。