とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

今日の仕事


今日はいつもより30分早く家を出ました。
始まりの時間がいつもより30分早かったので。
普段は7時ごろに出るから、6時半出勤です。

鹿児島は、夜明けが遅いので冬場は真っ暗。
7時くらいまでは、まだ”夜”って感じなのですが、それでも三月ともなるとさすがに明るくなってました。
寒さも和らいで車も少なく人気のない道を、とことこ歩いて出勤。途中で、ランニングしてる人とか、犬の散歩してる人とかとすれ違う以外、道もすいて気持ちがいい。

さて、私は二ヶ所でバイトをしてるのですが、今日のお仕事は麻酔。
医療物のテレビなんかで手術のシーンがあると、手術してる端っこでこそっと立ってる、たいてい患者さんの頭んとこね、あれです。

それにしても、医療ドラマにおける麻酔医の地位はほんと地味。
ひどいときには、手術風景にその存在がないときも。モニターとか麻酔器が映っている所に誰も居なかったり、明らかに看護師さんの役柄の人が代わりに立ってたり。

ひょっとしたら、全身麻酔で手術した人でも病院で麻酔医に会ったって記憶、ないんじゃないかな?
手術室にひっそりと隠れ棲んでいて、いつのまにかこっそり眠らせる妖怪みたいな存在とでも言いましょうか。
そういえば、ドイツにはサンドマンという砂をかけて眠らせる妖怪がいるそうですね。

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ドラマや映画ではそんな地味な存在ですが、実際の手術では、なくてはならない存在です。

手術の間だけでなく、手術の後も痛みが無いように、痛み止めの薬を調整したり、血圧の管理をしたり。
麻酔中は大抵呼吸を止めてしまう薬を使うので、低酸素状態にならないように、つきっきりで人工呼吸器に調整してたり、なんてこともしてます。
側で見ると、やっぱりほけっと突っ立って、モニター画面を眺めているように見えるのですが、麻酔医がのんびりしているように見えるときは、全てが順調な印、なんですよ。

医療物のドラマ(*1)はあまり見ないのですが、たまに見てると、手術中のシーンで緊迫した状況の中『血圧低下!』とか『心拍出ません』とか、さらっと言ってる人、多分麻酔医だと思うのですが、手ぶらでモニター眺めて言ってるだけ、に見える。
あれってどうなんだろう。

実際の麻酔医は、あたかも水辺に浮かぶ白鳥が優美に進んでいくように見えて、その足は盛んに水を漕いでいるように、あるいは、優雅に泳ぐシンクロナイズドスイミングの選手が、水面下では激しい運動をこなしているように、手術中のさまざまなことが平穏に過ぎていくように、常に手を尽くしているのです。

何もしてないように見えて、手術の進み具合を見ては次に起きそうな状況を予測して、タイミングよく必要な薬を投与したり、調整したり。

ですからね、手術がうまくいかなくて、患者さんの心臓が止まりそうになってるなんて時は、もうそうなるずっと前から、ありとあらゆる対応をしてるはず。
そして、そんな時使われる薬は、普通の点滴するような血管から投与してはいけないことが多いので、首とか太腿の直接心臓に行くような血管に別に点滴ルートを入れないといけなくて、その上、一時間に数mlとか、ごく微量を精密に投与しないといけないから、特殊な精密機械が必要。
竹林のごとく(はちょっと大げさだけど)に点滴スタンドが立ち並び、何本もの点滴スタンドには特殊な精密機械が取り付けられ、その中心で、心臓をなんとか動かそうと、モニターの数値や波形を睨みつけつつ、薬を投与してる、のが緊急時の麻酔医です。

そしてもはや投与する薬や処置ではどうしようもなくなり、外科医に『もう、麻酔医サイドではどうしようもないんですっ、何とかしてよっ外科医!!』と祈るような気持ちで口にするのが、上の台詞、なんですね。
その時見えないけど、着ている術衣は脇汗と脂汗でじっとりと濡れているはず。

だからね、地味だけど実は大変なお仕事、なんですよ。



(*1)人気医療ドラマ『ドクターX』ではちゃんと麻酔医がいますね。内田有紀がやっているらしい。
昔、『振り返れば奴がいる』っている医療ドラマがあったけど、それに出てくる麻酔医も綺麗な女優さんがやってたな。
でも、手術に失敗して落ち込む外科医に、手術の直後に”もういいから、飲みに行こう”って誘ってて、『術後に、外科医も麻酔医もそんな暇ないぞ〜』ってみんなで突っ込んだ覚えがある。