とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

アーサー王と円卓の騎士〜サトクリフ・オリジナル



前々から、気になっていたのですよ。
アーサー王の物語。
やっぱりねイギリス関係の本とか、映画とか、ちょくちょく引用されてるじゃないですか。

シュレックにも出てくるし。

アーサー王と王妃グウィネヴィアと騎士ランスロットが三角関係にあって、それで色々こじれて大変だったらしい、と言う事以外はよく知りませんでしたので、一度は通して読んでみよう、と思っていたのです。

ネットやアマゾンのレビューによると、トーマス・マロリーによる小説が一応、原典らしい。
そもそもが、伝承や詩を集めた話なので、やたら長くて読むのに根気がいるらしい。
登場人物の行動に、古典であるとか、神話の世界の話であると言うことを考量しても、ついていけない点がたくさん見られるらしい。

などなどと、なんか読む気の無くなりそうな話ばかりが。
それでも検索していたら、サトクリフ版があることを発見。
ローズマリー・サトクリフ
この人の作品は、子供の頃、随分読んだものです。
『第九軍団の鷲』とか『王のしるし』とか、何度も読み返したな。

サトクリフ先生のご著書なら、最後まで読み通せるかも。
オリジナル、とうたっているだけに、だいぶ脚色されているみたいですけど、まあそこは大体の筋がわかればいいのですから。

図書館で検索したらすぐ借りられたので、早速、先週末読んでおりました。

第1巻:アーサー王と円卓の騎士

目次
第1章:アーサー王の誕生
第2章:石にささった剣
第3章:湖の剣
第4章:円卓
第5章:船、マント、そしてサンザシの樹
第6章:湖のサー・ランスロット
第7章:サー・ガウェインと緑の騎士
第8章:台所の騎士ボーマン
第9章:ランスロットとエレイン
第10章:トリスタンとイズー
第11章:ジェレイントとイーニッド
第12章:ガウェインと世にも醜い貴婦人
第13章:パーシヴァル参上
作者の言葉
訳者あとがき

アーサー王物語の始まりのお話。
個人的に一番参考になったのは、作者の言葉と訳者あとがき
でした。
大体の流れが知りたければ、こっちを読むとわかりやすい。

アーサー王以前、イギリスはローマの植民地でしたが、ローマが衰退して撤退してしまい、そのあとにサクソン人や北に追いやられていた先住民がやってきて、入り乱れての戦国時代状態になってました。
そこにアーサー王に該当する、とある英邁な王が登場して、ごちゃごちゃしていた国々をまとめ、それなりに安定した治政を敷いたものの、残念ながら一代で終わってしまい、またもやぐちゃぐちゃの戦国時代に戻ってしまったらしい。
まだ文字による記録も、一般的では無かった時代。
そのため、アーサー王については、口伝えの伝承や詩でしか伝わっていないらしい。
とはいえ、アーサー王と彼に仕えた騎士達の冒険物語は、イギリス人のアイデンティティ形成に大いに役立ったのでした。

さてお話は、魔法使いマーリンから始まります。
ここと、アーサー王誕生秘話は、サトクリフのオリジナルらしい。

マーリンは、アーサー王が王になるまでに、大きな力を発揮した人物なので、どんな人なのか詳しい説明があるのは、ありがたい。
彼は、とある王女の私生児として、生を受けます。
父親は人間ではない、らしい。
ただ日本やギリシャの神話のように、どこかの神様だったりもしない。
すでにキリスト教が入ってきていたから、でしょうね。

とにかくこのマーリンは、少年時代に生贄にされかけたくせに、逆に自分を捉えた王の破滅と、アーサー王の出現を予言します。
ここはいかにも神話っぽい、です。

その時は流れ、ブリテンの王ウーゼルが、敵方の奥方イグレーヌを見初めます。
そして、いつの間にか大魔法使いとなっていたマーリンの手を借りて、戦時中にも関わらず、奥方の室内に忍び込み、思いを遂げます。
と、同時期に敵方の王が戦死。

ブリテン王ウーゼルは、さっそく未亡人を妻にします。
そして生まれたのが、アーサー。
ここんとこは、アーサーがウーゼルの種じゃないと色々めんどくさいからじゃないの?
と、現代に生きるおばさんは考えなくもないのですが。

それはさておき、アーサーはマーリンの差し金によってウーゼル王の下ではなく、領主エクトルに預けられて育ちます。

アーサーが15歳になる頃、『そろそろ潮時だな』と思ったマーリンは、ロンドンの大司教デュブリシウスに会いに行き、クリスマスの日に新たな大王が示される、と言います。
奇しくもその時、教会の境内に剣が刺さった大理石が現れ、例の有名な言葉『この剣を抜くものが真の王なり』が刻まれていました。
お約束通り誰もが抜こうとしますが、抜けません。
そこで、剣を抜ける者を呼び寄せるため、表向きは大々的な馬上試合を開催することにします。

何も知らないアーサーは、馬上試合に出る兄貴分ケイの従者としてロンドンにやってきます。
そして、粗忽にもケイの剣を忘れてしまったので、通りがかりに見た剣を『ちょうどいいから借りちゃおう』と抜き取ってケイに渡します。
サクッと抜いちゃうあたり、いいですね。
ケイは、自分の剣じゃないのを持ってきたアーサーに、どこから調達したかを尋ねると、『ちょっとそこの境内から』みたいな答え。
剣の由来を知っていたケイは、此れ幸いと、自分が抜いたことにして父エクトルに報告に行きます。
が、エクトルはバカじゃなかった。
あっさりケイの嘘八百を見抜き、ついでにアーサーが真の王となることを知ります。
ところが、まだ若いアーサーを、王と認めることに疑問を呈する人も少なくなかった。
そこで、満を辞して現れるマーリン。
アーサーの誕生秘話を語り、あっという間に人心掌握。
こうして、アーサーは王となったのでした。

アーサーはマーリンの力を借りて、ブリテンを統一。
近隣の領主達を従えて勢力拡大。
この辺りを詳しく語ると、井上靖の“蒼き狼”っぽい話になるのでしょうが、さらっと流してます。
本編はどちらかというと、アーサーがブリテンを統一し、世の中が安定した頃を中心に語られます。

さて破竹の勢いで戦に勝ちまくり、統一間近のアーサー。
そこへ、母方の長姉モルゴースがやってきます。
ちなみに、母方の姉は3人いましたが長姉のモルゴースと三番目の姉モルガン(このお姫様は妖姫という二つ名までついてる)は執拗に、アーサー王や騎士達に呪い&罠を仕掛けてきます。
物語の悪役的存在です。

生まれてすぐ養子に出されたアーサーは、モルゴースの顔を知りませんでした。
彼女は、すでに子供もいる人妻でしたが、ある目的からアーサーを誘惑し、身ごもります。
折悪く、マーリンは恩師に会いに行ってて不在。
なのでモルゴースが怪しい、と警告できませんでした。
生まれた子供は、モルドレッドと名づけられます。
ここんとこ、伏線です。

父は違えど姉と弟の近親相姦、という大罪が出てきます。
マーリンの証言がなければ、父も同じってことになる。
キリスト教も入ってきていた時代、神話とは言え、良いのか? のっけから。

ひとまず、そのことは脇に置いておいて、アーサーはブリテンを無事に統一。
アーサー王の元に、様々な武勇に秀でた騎士達が集まってきて、お話が始まります。

とある珍獣(頭は蛇で、胴は豹で脚は鹿と言うキメラです)を追いかけるよう、運命付けられたペリノア王。
この人はアーサーより強かったんですけど、マーリンの魔術で家来にさせられちゃう。
それから、アーサーの異父姉妹の産んだ甥達。
そしてランスロット
嫁に来たグウィネヴィア。
グウィネヴィアは、嫁入り道具の一つに円卓を持ってきてました。
これが、アーサー王の円卓の騎士の元になる円卓。

12人掛けかと、ずっと思ってましたが、実は150人座れたそうな。
座るべき人物が現れると、椅子の背に名前が浮かび上がる仕組みです。
100人は、アーサーの舅となるロデグラス王がプレゼントしてくれたので、アーサーが自前で揃えた騎士は50人ほどらしい。

ところで、アーサー王の聖剣エクスカリバー
てっきり大理石から抜いたのがそうか、と思っていたのですが、違いました。
そっちは戦いの最中に、あっさり折れちゃって(てか、このころの剣はよく折れてたらしい)、湖の精からもらってました。

騎士の中でも屈指のモテ男ランスロットは、中程でやってくる。
大抵は美形に描かれるらしいのですが、サトクリフ版では。なぜか顔が歪んでます。
左右のバランスがおかしくて、右側はどうも麻痺があったらしい。
その歪みが女性には特別な愛情をかき立てて、やたらとモテた、と言う設定です。
妙に具体的なので、誰か実在する人をモデルにしていそう。
その人を励ましたかったのかな、サトクリフ先生。
と思ったりして。

後半は、円卓にやってきた騎士達の冒険物語。
ほとんどが伝承、長編詩、古謡から集められたものだそうです。
旅の吟遊詩人が語ったり、囲炉裏端で語られたりした物語。
なので、それぞれの語り部が自分の”推し”について脚色したり、創作したりして形作っていったものと思われます。
実際、台所の騎士ボーマンの下りはトーマス・マロリーの創作らしい。
そういうわけで、やたら話の始まりが唐突で、つながりもほとんどありません。
一話完結の短編的なエピソードが、たくさん出てくる。


だいたい、話の初めに助けを乞う乙女が現れて、乙女の要請に応じて、悪者を退治しに行くことになっているらしい。
あとは、よくわかんないけど”犬も歩けば”式に、放浪してると冒険に出会うことになってるらしい。

なんか、厨二っぽい。
ドラゴンボールか?北斗の拳か?
なんとなく、水滸伝を思い出す。
とにかく戦ってたら、いいらしい。
男の子の世界だなぁ。
その戦いも、よくわかんない理由で始まるし。

ルールとしては、道を進むとお城やテントが現れて、その脇に戦利品を吊るしてあったら、戦いを受けて立つ騎士、ってことらしい。
そこで盾を打ち鳴らすと、挑戦できる仕組みです。
戦い方ですが、技もへったくれもない。
向かい合って馬を走らせ、ぶつかる間際にお互いに槍で相手を突く。
上手くいくと、どっちかが落馬。
即死ないし戦闘不能、になってなければそこからは馬を降りて、剣を抜きチャンバラ開始。
剣術という剣術もないらしく、とにかくパンチ&ジュディよろしく叩き合う。
最後は剣も捨てて、殴り合いになることも良くある。
現代のハリウッド映画でも、ヒーローものは大抵、最終盤になると、敵も味方も武器も捨てて、拳で殴り合ってますので、なるほどその原点はここにあったのね、と思ったりして。

ランスロットは、アーサー王にの無二の親友、と言う立ち位置ですが、アーサーと一緒に戦うこともなく、アーサー王に騎士に叙してもらったあとは、やたらと冒険に出かけててあんまりそばにいません。
一つには、騎士になった時の儀式で、グウィネヴィアと恋に落ちちゃったから、彼女を避けるため、もあったらしい。

モテ男ならではの逸話、シャーロット姫の話は出てきません。
アガサ・クリスティの小説にも扱われているくらいだから、出して欲しかったな。
確かに、大筋に関係はないですけどね。
百合の乙女エレインの話は、出てきます。
エレインは、唯一、ランスロットの息子ガラハッドを産むので、外せません。

ちなみにガラハッドは、百合の乙女エレインがランスロットを恋い焦がれるあまり、乳母で魔女のブリーセンの助けを借り、ランスロットをだまくらかして一晩だけグウィネヴィアになりすまし、思いを遂げた結果、生まれた息子でした。
何しろ灯のない時代。
真っ暗な部屋だったので、すっかり騙されちゃったランスロット
暗くて相手を間違えた、というのは源氏物語にも出てくるシチュエーションですが、源氏物語の貴公子たちと違って、ランスロットはショックのあまり気が狂ってしまい、三年余り森の中で野人生活を送ります。
そのため、髪も真っ白に。
激しいです。
ガラハッドの事もグウィネヴィアにばれてしまいますが、嫉妬したグウィネヴィアが、逆にランスロットに近づくようになり、二人はすっかり不倫の関係になってしまいます。

アーサー王の甥に当たるガウェイン(アーサーの一番上の姉モルゴースの長男)は、緑の騎士と戦ったり、醜女ラグネルとの話とか、神話ちっくな目にあってます。
こいつときたら、初っ端で乙女の首を間違って切り落としちゃったりと、やらかしております。
やんちゃキャラですが、後半はランスロットとグウィネヴィアのことで色々と苦悩したり、愛妻ラグネルに先立たれた後は、人格変わっちゃったりと人間臭い。

その他、シンデレラの騎士版ボーマンことガレス(もモルゴースの息子)とか、色々、楽しい逸話が出てきます。
ガレスとガヘリス兄弟が嫁にするのが、リオネスとリネットの姉妹。
ツンデレなリオネットに、芯の強そうなリオネスと、なかなかに個性があって、楽しそうな姉妹です。
ここの章だけで、ちょっとしたテレビシリーズが作れそう。

全体として、”男の子の世界”なので、女性に主要な役割はほぼ当てられていない。
そもそも、名前もなかったりするしね。
唯一の女性ヒロイン・グウィネヴィアなんて、大抵はお城の奥で、刺繍して過ごしてる。
でなきゃ、ランスロットと辛い恋に身を焦がしてるか。
たまに合同ハイキングを企画すれば、参加者もろとも誘拐されちゃうし、親睦パーティを開催すれば、参加者が毒殺されちゃって、おまけに犯人に仕立て上げられちゃうし、と問題が起きる度に、その当事者になってる。
”運命の女”だから、あんまり動き回ったり、自分の意見を主張したりする、と困るんでしょうね。


旅の吟遊詩人や、話し上手な誰かが、囲炉裏端で冬の夜なんかに語りきかせて、人々(特に子供達)を楽しませてたんだろうな。
その都度、その語り手の”推し”についての創作が少しずつ入って、より面白い話になっていったんだろうな。
落語みたいな感じ、だったのでしょうか。
長屋のはっつあん、熊さんみたいに、ガウェインと言えばこういうキャラで、ランスロットが出てきたらこういうストーリーになる、みたいな。


最後に、野生少年パーシヴァルがやってきて騎士になるところで、サトクリフ版アーサー王と円卓の騎士は終わり。

ちなみにパーシヴァルは、最初の方で珍獣を追いかけつつ、ついでにアーサー王も手伝ってたペリノア王の息子でしたが、父王をガウェインたち兄弟に殺されてしまい、争いのない世界で息子を育てたかった母に連れられて、農夫として育ったのででした。
でも、やっぱり騎士になっちゃった。
だいたい、子供ってのは母親の願い通りには育たないもので。
モルゴースの息子達も、妖姫モルガンの息子達もアーサー王の騎士になっちゃって、最後まで味方だったりするし。

パーシヴァルがやってきたことで、聖杯の冒険が始まることになって、お話は第二巻へ。