とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

屍者の帝国〜を読んで

一読して、”なんかこの世界、臭そう”というのが感想。
あちこちに、屍体がゾンビ化して働いている世界です。
常に、腐臭が漂っているらしい。
あまり暮らしたくないような。
特に湿度の高い日本だと。
夏なんかね、生ゴミの中にいるような感じになるんじゃないだろうか。
いくら馴化するとはいえね。
どうかした時に、ふっと臭ったりするんだろうな。
鼻の悪い人向けの世界です。
あと、結構、グロい描写が多いので、ご飯食べながら読むのは避けたほうがいいかも。


舞台は19世紀後半。
主人公は、なんとあのジョン・H・ワトソン博士。
シャーロック・ホームズとつるんでいるときは、ちょっとお間抜けな常識人という立ち位置ですが、本作品では頭脳明晰な医学生として登場します。
ロンドン大学で、死体(ここではよく屍体と表記されている)に電気刺激を与えて、活動可能な状態にする授業を行っている場面から始まります。
この世界では、人間の死体に適切な刺激を与えると、生きていた時と同じように動くことができるのです。
そして、そのようにして動けるようになった人間は、元の人格や記憶を失い、ちょうどロボットのように設定された動きを忠実に、ひたすらするようになる。
人々は生き返らせたゾンビに危険な作業や、単純作業を替わりに行わせることによって、経済を発展させています。
なぜか、倫理的な抑制によって女性のゾンビや子供のゾンビはおおっぴらには作成されず、一種の悪趣味な犯罪として扱われています。

さて、そんな世界で、主人公のワトソンくんはその優秀さを見込まれて、エージェントとして戦争中のアフガニスタンに赴くことになります。

そこで、彼は作品の中でのラスボス、ザ・ワンの存在を知り、彼を追って、日本、アメリカ、と世界を股にかけて旅行することになります。

登場人物は、ワトソンくんだけでなく、フランケンシュタイン博士も伝説の天才科学者として出てくるし、そもそも、ザ・ワンというラスボス、フランケンシュタイン博士が創り出したクリーチャー(怪物くんで、頭に傷のある大男ですね)として説明されている。

他にも、アフガニスタンに行ったら、アレクセイ・カラマーゾフが出てくるし、ドミトーリィも出てくるし。
その章で、ワトソンくんと同行するニコライ・クラソートキンって誰だっけ?
名前に覚えはあるんだが。
またカラマーゾフの兄弟を読まないと。
日本に行ったら、大村益次郎がサイボーグ化してました。
途中一緒になるのは、グラント将軍だし。

と、そんなわけで、あちこちに古典文学や古典SF小説に出てくる登場人物と歴史上の人物が、カメオ出演してきてて、好きな人にはにやりとさせられる場面が散りばめられている。
なんとなく、映画、みたいな感じ。

何しろ、蒸気機関が開発されたばかりの世界なので、SFなんだけどどこかレトロ。
サイバーパンクな世界観だし。
この感じ好きな人には、すごくハマる気がします。
アニメ化を意識してか、かなり資格的な描写が多い。
ファイティングシーンなんか、脚本みたいにえらい具体的に書かれてます。
と思ったら、すでにアニメ化されてるんですね。
その方面では有名な作品なのかな。

そして、あまり女性が出てこない。
唯一出てくるヒロインはアンドロイドだし。
お名前もまんまハダリー・リリス
トーマス・エジソン作。

小学校の頃、図書館にあった海外の古典SFを読みまくってた人は、嬉しいかも。

とはいえ、お話の筋は、よくわかりませんでした。
この世界、ゾンビ化できるのは人間、だけらしい。
動物には電気刺激を与えても、ゾンビ化しないそうです。
それは、人間にしか魂がないから、というのが人類の結論。
だったのですが、天才フランケンシュタイン博士によって創られた(らしい)クリーチャーであるザ・ワンは、そうではないと反論します。
動物にも魂はあるんだけど、適切な刺激を与えてないから、ゾンビ化しないのだと。
そして、人間の魂と言われるものも、結局、人間に共生している菌株の活動の結果だと言います。
この辺から、なんだか言葉遊びみたいになっていって、よくわからなくなって来る。

最後、ロンドン塔でザ・ワンはそもそもの望みであった伴侶(女性のクリーチャー)を作成し、ついでにロンドン塔を破壊して消えます。

一方、ワトソンくんは最後の鍵となる菌株を、ザ・ワンから託され、己の脳の中に隠します。
そのせいで、シャーロックと出会った時は、ごく普通の人になってしまってたんでしょうかね。

最後の読後感も、各エピソードが回収されてない感じで、イマイチすっきり感がない。

テーマとかストーリーの整合性をあれこれあげつらうより、細かく作り込まれた世界観を楽しむ作品だと思いました。