とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

ゲット・アウト〜観てきました

鹿児島(地方)で映画を観ると、良いこと。

①いつ行っても映画館が空いている。
②上映されるのが遅いので、ネタバレを含めてレビューを事前にチェックできる。
③同じく、観たい人は見てしまっているだろうから、好きなだけネタバレしながら感想がかける。

こんなところでしょうか。
というわけで、ゲット・アウト。
しっかりネタバレしてます。

ホラー映画は、元来苦手、なのですが、これは予告が面白そうだったのと、大好きな”サイモン・ペッグニック・フロスト”テイストの映画、だと誰かが書いていたのとで、それは観なくちゃっ、と公開初日に観て来ました。


相変わらず経営状態が心配になるほどの、客の入り。
初日だというのに、ほぼ貸切状態です。
真ん中の席で、ゆったり広々、楽しんで参りました。

ドッキリシーンは苦手なので、あんまり心臓に負担をかけないようにと、予告編を何度か観て予習しすぎたせいか、始まってすぐくらいに「これって、こういう話?」とあたりがついてしまったけど、それはそれで、本当に予想通りに展開するのか、どきどきしながら観ることが出来ました。

一人の黒人男性が、深夜の閑静な住宅街の中を携帯で話しながら歩いているところから始まります。
確かに日本ほどには安全な国ではなさそうなアメリカですが、いかにも、平和で安全そうな住宅街。

ところが、黒人男性は怯えています。
電話でも、「俺みたいのが、こんなところで知らないやつに誰何されたらやばいよ」とかなんとか言ってる。
普通なら、夜に子供が歩いてても大丈夫そうな街なのに、白人ばかりの街に黒人がいるだけで、通報されて逮捕されたり、場合によっては自警団気取りの住民に撃ち殺されたりしてしまうアメリカ。
実際、オバマ政権の時にも、学校帰りのごく普通の高校生が撃たれて亡くなってましたね。

電話の内容では、恋人がこの近くに住んでいて訪ねてきたものの、道に迷ってしまったもよう。
そこに、音楽を流しながら一台の車がやってきます。
意味ありげに、彼の横でスピードを落とす。

逃げようか、どうしようか。

ちょっと先で、停車する車。
近所の人かもしれないし、そうじゃないかもしれないし。
普通だったら、道に迷っているんだし「ちょうどいいから道、聞いちゃお」と思うはずなのに、ビビっている彼。
踵を返して立ち去ろうとした瞬間、背の高い男に後ろから羽交い締めに。男は黒い兜のような仮面をかぶってます。ちょっとKKKを思わせなくもない。
男のヘッドロックで気を失い、そのまま車のトランクに詰め込まれる黒人男性。
流れている、すごくテンポの良い明るい音楽が、不気味さを強調。

そして、本編へ。

黒人のクリスくんは、恋人のローズと彼女の実家を訪れることになっています。
クリスくんは、新進気鋭の才能あるカメラマン。
恋人のローズは白人。
名前もローズ・アーミテージという、いかにも東海岸の名家出身というお名前。

出かけるに当たって、クリスはローズに確認します。
「ご両親に、僕が黒人だって、伝えてあるの?」
クリスは自分が黒人で、その事が白人の両親にとっては緊張をもたらすものだと自覚していて、それに対して現実的に対処している人物なんですね。
実家に向かう途中、事故を起こしたローズが州警察を呼んだときに、助手席に乗っていただけのクリスが(おそらく黒人だという理由で)身分証提出を求められた時も、特に、葛藤も躊躇もなく穏やかに差し出しています。
むしろ、過敏に反応しているローズをたしなめていたり、うまく冗談で収めようとしている。
そのシーンだけでも、クリスくんは常識的な人間だとわかります。

一方、ローズは両親に彼が黒人であることを伝えてはいない、と言います。
だって、わざわざ伝えること自体が、差別なんじゃないの?
と、ちょっと頭でっかちで、理想主義的な感じのローズ。
州警察にも食ってかかってましたね。
苦労を知らない理想主義の白人のお嬢様、という感じ。

ローズの実家は、大きな湖の半分の土地を占める広大な敷地を持った、裕福な家でした。
父は神経外科医。
母は精神科医です。
さらに父の後を継ぐべく医学部で学んでいる弟もいて、ローズの祖父母を偲ぶパーティのため、帰省してきていました。
実は年に一度、既に亡くなったローズの祖父母を偲ぶパーティを親族や土地の名士を招いてこの週末に行っていたのでした。
ローズはうっかり忘れていた風でしたが、なんか怪しい。

一家は、黒人のメイドと庭師を雇っていました。
父親が、クリスに彼らを雇ったのは両親(ローズの祖父母ですね)の介護をするためだったのだけれど、亡くなった後も解雇できずにいてもらっているのだ、と説明します。
郊外の豪邸で黒人を雇っている、というのは、いかにもなんだけれど、実は違うんだよと、やけに細かく言い訳する。
それが、またかえって普通で無い感じを強調。
その雇われているメイドのジョージナや庭師のウォルターの表情や動きが、どこかちぐはぐなんですね。

やたらニコニコしているジョージナの怪演がすごい。
母のミッシーも、やたら、カップやアイスティのスプーンをかちゃかちゃ鳴らしてて、なんか変。
家族や、召使いたちがみんなやたらとクリスに優しいのに、逆に敵意むき出しの弟ジェレミー。
これは、大好きな姉を取られそうで嫉妬しているから?
この弟もちょっとキレてそうで、怪しい。
家族でのディナーの終わり頃、デザートを取りに行こうとする母がダイニングの扉を開けると、やけにナイスなタイミングで立っているジョージナ。なんか変。

夜にこっそりタバコを吸おうと、外に出たクリス。
一応、周りには禁煙を始めたと言っているのですが、どうにも変なローズの家に来て、ストレスが溜まって吸いたくなった模様。

外に出たクリスに向かって、ものすごい勢いで、走ってくるウォルター。
無表情に通り過ぎていくのが、何もされていないのに、怖い。
ふと部屋を見ると、メイドのジョージナが窓辺に。
彼女は窓に映る自分の姿をうっとり眺めている。
なんか変。
部屋に戻ろうとすると、母ミッシーが、仕事部屋にしているという小部屋(Boudoir/ブドワール*ってやつですかね)にいつの間にかくつろいでいる。
家を出るときは、電気ついてなかったんじゃない?

どうやら待ち受けていたらしい、母ミッシーに、クリスの亡くなった母のことについて『話しをしましょう』と誘われて、クリスはまんまと催眠術にかけられてしまいます。

翌朝、催眠術のことをローズに話すと、激おこのローズ。
「こんなことするなんて信じられない」とめっちゃ怒ってます。
かえって、「いや、それで禁煙に成功できたし」とフォローしてしまうクリス。

白人だらけ(になるであろう)パーティに気乗り薄なクリス。
でも愛するローズのために、頑張って乗り切ろうと決心します。
夫の実家で、盆暮れ正月を乗り切る嫁の気分ですね。

次々を真っ黒な高級車に乗ってやってくる客たち。
全員、ほぼ白人。
ローズの父ディーンもそうだけど、パーティの客たちも、やたらクリスに対して、フレンドリーだし、黒人を持ち上げるような話題を出します。
それも、わざとらしいくらい。
クリスは、白人だらけのパーティ会場に一人の黒人がいることに気がつきます。
ところが話しかけると、その黒人男性、なんとなく会話が噛み合わない。
それに言葉遣いも、服装も身のこなしも、なんだか古風です。

ふと思いついてスマホを取りに屋敷に戻るクリス。
クリスが視界から消えた途端、会話が途絶え、クリスの行き先を凝視する出席者たち。

二階には、ジョージーナが。
彼女の満面の笑みで、涙を流す顔が怖い。
何か、内部に別のものがいて、出てこようともがいているようにも見える。

クリスが、スマホでもう一人の黒人青年を撮影するときに、うっかりフラッシュを作動させてしまうと、その途端、豹変する青年。
『出ていけ(GET OUT)!』
と叫んで、クリスに掴みかかってきます。

豹変した青年が気になったクリスは、ニューヨークの親友ロッドに、撮った映像を送り尋ねてみます。
その青年は、二人ともよく知っている人物でした。
でも、まったく雰囲気が違っています。
戸惑うクリスに、『そこはおかしいから、早く逃げてこい』というロッド。

クリスが席を外している間、どうみてもオークションをしている父ディーンと出席者たち。
その商品はクリス。

やっぱりおかしい。

ロッドに促され、自分でも怪しいと感じたクリスは、家を出ようとします。
荷造りをしていると、ローズの私物と思われる箱を見つけます。
そこには、他の黒人男性とローズとツーショットの写真。
それも何枚も。
毎回、違う黒人男性。
ジョージナと肩を組んで写っている写真も。

おかしい、おかしい。

とにかく家を出ようとするクリス。
写真に写ってる時点で、ローズも怪しいのだけど、そこはまだ信じているのでしょうね。
一緒に家を出ようとします。
階段を降りると、ラクロスのラケットを持って玄関ドアの前に立ちふさがる弟ジェレミー。
近づいてくる両親。
どういうわけか、バッグから鍵が見つからない、ローズ。
焦るクリス。

やっぱり、ローズもグルでした。

時すでに遅し、催眠術の影響で金縛りになってしまうクリス。
次に気がついた時、革張りの椅子に拘束されている。

アーミテージ家では、催眠術と脳外科手術を組み合わせて、脳を入れ替える手術をしていたのでした。
入れ替えるといっても、全部そっくりではなくて、一部だけを移植するため、被害者は意識を保ったまま乗っ取られてしまうのです。
雇われている黒人使用人たちのおかしな様子や、パーティでの青年の振る舞いはそのせいでした。

逃げたくても催眠術のせいで、カップを叩くスプーンの音を聞くと、金縛り状態になってしまうクリス。

一方、連絡が取れなくなったクリスを心配する友達ロッド。
ローズとの電話で、ローズが怪しいと気がつきます。
しかし警察に、推理を話しにいっても、大笑いされておしまい。

その間も、移植のための準備は着々と進んでいます。
ローズはといえば、次のターゲットを探してネットサーフィン中。
イケメンの黒人男性たちを、まるでカタログ雑誌を見るように眺めています。

絶体絶命のクリス。

眠らされている間に、無意識に掻きむしった椅子の肘掛部分からはみ出た綿を見て、あることを思いつきます。

スプーンの音刺激で、意識を失っているクリス。
クリスを搬送するために助手役をしている弟がやってきます。
拘束具を外し、車椅子に移そうとした瞬間、クリスに殴り倒されます。
はみ出た綿で、耳栓を作ってスプーン音を遮断していたのでした。
自由になったクリスは、今までの仕返し(脳を移植された他の黒人たちの仇?)とばかりに、父ディーンを倒し、母ミッシーを倒します。
意識を取り戻した弟ジェレミーも倒し、弟の車に乗って逃げ出すクリス。
戦いの反動で壊れた照明や家具から火がつき、家は火に包まれます。

ジェレミーの車の運転席にさりげなく置いてある黒いマスクは、オープニングで男が被ってた奴でしたね。

そこに、追いかけてきたメイド・ジョージーナが、車にぶつかり倒れてしまう。
実は、クリスには幼少時に母をひき逃げで失った、というトラウマがありました。
倒れているジョージーナを見捨てていけないクリス。
彼女を助手席に乗せます。
しかし、彼女はローズの祖母に脳を移植されていました。
「よくも私の家を壊したわね」
と怒りのジョージナ(=祖母)に襲われるクリス。
横転する車。
かろうじて助かり、ふらふらと逃げ出すクリス。
庭師ウォルター(=祖父)が、ものすごい勢いで走って追ってきます。
その後からは、ショットガンを持ったローズ。

追いつかれて絶体絶命のクリス。
とっさに持っていたスマホのフラッシュを焚きます。
様子の変わった、ウォルター。
『自分がやる』
と、ローズのショットガンを受け取ります。

そして、銃を構え直し、ローズを撃ちます。
フラッシュの効果で、一時的に本来の自分を取り戻していたのでした。
その直後、ショットガンでわが身を撃って自殺します。

倒れているローズの息の根を止めようとするクリス。
でも、『愛してるわ』と言われると、どうしても力を入れることができない。
葛藤していると、そこのパトカーが。
どうみても、クリスに不利な状況。

しかし、やってきたのは交通警察に勤めている親友ロッドでした。
ぐったりとして、助手席に乗り込むクリス。
『だから言ったろう』と言いつつ、クリスを連れてその場を離れるロッド。
置いていかれたローズが息をひきとるところで、話は終わります。


最初の構想では、やってきた警察にクリスが犯人にされてしまう、と言う、ブラックな終わり方の予定だったそうです。
ところが、最近、故なく黒人が警察に射殺されると言う事件が頻発していて、シャレにならなそうだったので、親友がやってきて助かる、と言う結末に変えたのだそう。
とはいえ、この事件が明るみに出ると、やっぱりクリスは無事では済まされないのでは?


この映画の怖さの一つが、言葉にされてない部分に存在する本音。
登場する白人たちは、心から黒人に憧れてるし、大好きなんです。
ただその好きさが、変なんですね。
彼らのクリスへの好意の言葉に嘘はない、ただその好意の内容と方向性がおかしい。
自分の欲望のために利用できる、素敵なガジェット、くらいの認識。
相手に、人格とか、尊重すべき意思があるなんて、思ってない。

旧約聖書にある『神は、人間を創造し、「これに海の魚と、空の鳥と、家畜と他のすべての獣と、地のすべての這うものを治めさせ」ることとし』と言うくだりを思い出します。
欧米的には、自然というのは人間のために神様が作ったものなので、よりよく利用するのが人間の使命なのだそう。
映画の白人たちにとって、黒人はよりよく利用するための動物と一緒、だったのかもしれません。
ジョージーナの身体を乗っ取ったローズの祖母は、日々その美しい身体を利用している”私”にうっとりしていたのでしょう。
気持ち悪い〜っていうか、怖い、怖い。

いろいろ考えさせられる、映画でした。



✴︎Boudoir/ブドワール
貴婦人用の小部屋のことで、元々はフランス語の「bouder/不機嫌」になるという動詞から来ているそうで、家庭のいろいろなストレスから不機嫌になった女性がこもって、気持ちを落ち着かせる場所、だったのかな。
今だと、お母さん用の家事コーナー、みたいなものでしょうか。