とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

怪物はささやく〜を観てきました

前から予告を見ては気になっていたこの映画。
おじさんが、映画でも観に行こうよ〜
と言うので、では「こちらでお願いします」とたってのお願いで観てまいりました。

こう言う文学作品ぽいのが、苦手なおじさんは
「ジェラシック・ワールドの続編を作る監督らしいよ」
と丸め込みました。

ストーリーはシンプルです。
イギリスのとある片田舎で母親と二人で暮らす12歳の少年が主人公。
母親は末期がんで、治療薬を色々変えて試しているけれど、もう先が長くないことは誰の目にも明らか。
でも、少年と母親は次の薬なら効果があるのではないか、と希望にしがみついています。

一方で少年は、毎晩のように悲劇的な未来を暗示するような悪夢を見ています。
寝不足気味で、食欲もなく痩せて、顔色悪いし目の下真っ黒で、いかにも不健康な暮らしをしていることが伺える少年。
表情も硬くて、とても周りから「可愛い」とか「手を差し伸べてあげよう」などと思ってもらえなさそうな子です。

母親と少年の世話をするために、やってくる母方の祖母。
厳しい祖母に少年は馴染めず、祖母も反抗的な少年を煙たく思っている。

学校では、同級生からのいじめに遭っています。
が、先生も他の同級生も見て見ぬ振り。
離婚してアメリカに行った父親は、会いには来てくれるけれど、休暇にはアメリカにおいでと言ってくれるけれど、少年を、再婚家庭に引き取る気は無い。

なんかもう、八方塞がりの状態。

舞台となっている、いかにもイギリスの村、という感じの風景が、また重っ苦しくて、じめじめしていてじわじわくる。
雨粒一粒まで重さを持っているようです。

少年の唯一の楽しみは、自分で絵を描いて過ごすこと。
夢中になりすぎて、深夜を過ぎることもある。

ある晩、裏庭の向こうの墓地のある丘にそびえるイチイの木が、少年の元に歩いてやってきます。

そして、三つの話を語ります。
最後の四つ目は少年が語らないといけない。

もう話の始まりから、これは少年が母親の死を受けれ入れて大人になっていくためのファンタジーなのだろうな、と予想がつきます。

どんな風に受け入れがなされていくのか、そこが興味深いわけで。

ところが、イチイの木が語る三つの話も、ありきたりのストーリーと思いきや、実は裏があって、おまけに全部語られることもなく、すっきりしない。
おまけに語り手のイチイの木は、「それが人間だからね、人間は複雑なんだ」と言って澄ましている。

パンズラビリンスでも思ったのですが、スペインやラテンアメリカ系の監督さんが作る作品って、子供に厳しい。
主人公に厳しい。
ついでに観てる観客にも厳しい。

補助輪なしでいきなり自転車に乗って、さあ走りなさいって感じに、それで転んでも自分で起きなさい、怪我して痛かったら自分で泣いて癒しなさい、という感じに、厳しい。

でも、それが現実。
だと思うのです。

そういえば、この監督さんもパンズラビリンスの製作にも関わっていたそうですね。
監督のギレルモ・デル・トロとも親交が深いとか。

そういえば、ゼロ・グラビティもレヴェナントもメキシコ出身の監督でしたっけ。
どちらも、ラストはなかなかに主人公に厳しい。
こんなに苦労した主人公に、その仕打ち?
と思わず突っ込んだっけ。


映像は、とても綺麗です。
こういうスペイン系の重厚な映像美は本当にはまってしまう。

ギレルモ監督は、パンズラビリンスを始め、ヘルボーイパシフィック・リムも独特の映像がなんともいえなくて好きでした。
金属を思わせるような重みと厚みがあって、どこか冷たい。
色彩とか、形状とか質感に対する感性が違うのでしょうね。

怪物はささやく」の映像は、ギレルモ監督とはまたちょっと違っていたけれど、やっぱり良かった。

祖母の家の、イギリスの中産階級の気取っていて、こちゃこちゃした感じのインテリアも良かった。
個人的には少年のお母さんが最期に横たわっていた、いかにも家から持ってきました感のあるタオルケット(?)が印象に残りました。
他にも、家の周りに生い茂る手入れされていない潅木とか雑草とか。
裏の丘に生えているイチイの木とか。

お母さんが入院する病院も、アメリカ映画のようにハイテクではなく、かと言って歴史のありそ気な石造りというわけでもなくどこにでも、日本の町にも、ありそうなごくありふれた古ぼけた病院。

さてこの映画、子供が出てくる現代が舞台、の映画だと思うのですが、一つ決定的なものが欠けています。

映画の世界観を表現するために監督があえて、排除したのか知らん。
原作者自身が脚本も手がけたそうですね。
それでなのかな?

さて、何が欠けているのか。
終わりの頃に、ふと気がつきました。
それは、ゲームと携帯。
主要人物だけでなく、エキストラで画面に映り込む誰も持ってません。
てか、電話をかけてるシーンもない。
どこか不思議な印象が残る映画なのは、そのせいかもしれません。


見終わって、また折に触れて思い返してしまう、そんな映画でした。

私としては大満足、だったのですが、いまいちすっきり感ないおじさん。
「結局、あの子は母親が死ぬって知ってたの?最後のシーンはなんだったの?」
って、いや、そこは別に考えなくていいところだから。

次回は、おじさん推しの「関ヶ原」でも観てあげましょう。