とりあえず始めてみます老いじたく

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リトル・ピープルの時代〜を読んで

図書館にあって、ふと手にとってしまった。
表紙の仮面ライダーの写真が懐かしかったし。
ペラペラめくってみたら、村上春樹のことが書かれていたので、仮面ライダー村上春樹?と興味を持ちまして。

そういえば確かリトル・ピープルって1Q84に出てくる、邪悪な存在、だったよな、新しい村上春樹解説本?

別に村上春樹がすごく好き、というわけでもないのですが、村上春樹って、「なんだこれは?」と言いつつも、ついつい読んでしまう文章だよなぁ。
なので、なんとなく肩が凝るようなものを読みたくない時には、ちょうどよくって、実は割と読んでます。

しかしながら、この本は、村上春樹を単純に解説する本ではありませんでした。
むしろ、村上春樹こき下ろし批評しつつ、その先への物語の行く末を説明しようとしている、と読みながら思いました。

村上春樹、もっと頑張れ、というエールもあるのでしょうか。
前半は、村上春樹の作品をあれこれ俎上にあげて批評しています。
その辺は、村上春樹についてたくさんの人が書いているし、ふーん、そうなんだ、程度の感想。

ただ私が、村上春樹を読むたびに、なんだか居心地の悪い、スッキリしない読後感を感じていた理由が、作品に流れるマチズモと、最後は母性に丸投げして終わり、というご都合主義を感じていたからなのかな、と思い当たることができて、よかったです。

思いながらも、時々よくわからなくなってきてたりして。
批評家さんの本って、時々、迷路に置いてけぼりにされたような気分になる。

ともあれ、『リトル・ピープルの時代』。
一通り読んだので、読書感想をば書いておこう。

まずは、例の壁と卵の話から。
壁=システム、卵=私たち
ビッグブラザー=打倒すべき国家権力あるいは何かの権威。
という対立概念は、すでに壁が崩壊してしまった現在では通用しない、とばっさり。

なるほど、そうかもしれません。
村上春樹の時代は、学生運動が盛んで、戦って倒すべき壁(ビッグブラザー)がはっきりしていた。
でも、世の中が広がってしまった今は、国民国家という大きな壁が、よくわかんないものになりつつある。
企業だって、多国籍になってるし、一緒に働く人だって同国人とは限らない。
それどころか、AIだったり、機械だったりして人間とも限らない、という時代がすぐそこに来ている。

そんな時代の変化を、みんなが感じる”気分”として、よく表すのが、朝のテレビでやっているヒーローもの、なんだそう。

ふーん、なんか、面白いぞ。

著者は、ウルトラマンシリーズの盛衰と、その終焉のタイミングで誕生してきた仮面ライダーシリーズとを比較して、ビッグブラザー(=超越者)の時代からリトルピープル=(構成員全員が、望まずとも決定者となってしまう)時代、とを論じています。
この辺り、番組の裏事情なんかも書かれていて、面白い。
ウルトラマンを作ったのが、戦時中に戦意高揚映画を目的とした映画を作っていた制作会社だった話とか、対して仮面ライダーは浅草の大衆芸能から生まれたという話とか。

当然、ウルトラマンビッグブラザー時代のヒーローで、仮面ライダーがリトル・ピープル時代のヒーローですね。
ちなみに、ビッグブラザージョージ・オーウェルの『1984』に出てくる国民国家を総べるもの。
最近だとスターウォーズのファースト・オーダー。
人々を包み込み、制御するものであり、一方で打倒すべきものでもある。

余談ですが、スターウォーズのファースト・オーダー。
もうちょっとマシなネーミングができなかったのでしょうか。
まるでファーストフード店のメニューみたい、だと思うのですが。

けれども、グローバリゼーションが進み、世界が一つになりつつある現代、ビッグブラザー自体の意味がなくなり自己融解してしまう。
村上春樹は、ビッグブラザーの壊死を予言はしたけど、その後の時代を描ききれていない、のだそうです。

さて、じゃあ、誰がそのあたりを描いているか、というところでガンダムシリーズエヴァンゲリオン登場。
もちろん、仮面ライダーシリーズも細かく解説&解析してくれます。

ガンダムは、一番最初のシリーズしか見ていない。
エヴァンゲリオンの頃は、もう現実世界の方がアニメの世界より楽しくて見ていない。
でも、こうやって解説してもらえると、なるほど〜とわかったような気がして面白い。

さらには、秋元康によるAKB48の売り方もリトル・ピープルの時代に即したものだそう。
そこには、日本独特(著者は、東アジア独特と言ってますけど)の文化の消費体系があるといいます。

そして、クリストファー・ノーラン監督のバットマンシリーズは日本で独自に生まれたリトル・ピープル時代のヒーロー像(仮面ライダー)をハリウッド流に表現したものである、とも。
つまり、流行はすでに『海をこえてアメリカからやってくるもの』ではなく、『日本が独自に生み出していて、それを知ってかしらずかアメリカが莫大な資金とコマーシャリズムで広めるもの』になっている、と言っちゃっている。

テーマが現代文化の批評、なだけに話が、ビッグブラザーVSリトル・ピープルだったり、ウルトラマンVS仮面ライダーだったり、そこに、ポケモンやらAKBやら、バットマンシリーズやら『ノーカントリー』(※)やらが、混ぜ込まれて、闇鍋状態になっている感もなきにしもあらず。

面白いけど、振り回されちゃいました。

同じ著者の本で『ゼロ年代の想像力』という本もあって、こちらの方が薄いし、よくまとまっていそう。
こっちから読めばよかったかな。

※:ノーカントリー
コーエン兄弟の映画でアカデミー賞受賞作品でもあります。
あのハビエル・バルデムさんが、映画史上、最も怖い殺し屋として名高いアントン・シガーを怪演してます。

ノーカントリー - Wikipedia