とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

西郷どん〜読みました


大河ドラマの方は、あまりに残念な出来なのでほとんど見ておりません。
奄美大島編だけは、『二階堂ふみが良いから見るように』と子虫から言われてなんとなく流し観はしてたけど)

でも、林真理子という人は、エッセイなどを読むとミーハーで軽いノリの人のように思えるけれど、実はすごく真面目で勉強家、と言う評価も読んだことがあり、特に歴史物などはちゃんと資料を読み込んで忠実に書く人だと言うから、原作はどうなのだろう、と思い、図書館で予約。
やっと順番が回ってまいりました。

一読して、感想。
なんだ、面白いじゃん。
ちゃんと書いてあるじゃん。
最初の場面で、語りの主が息子の菊次郎で、場所が京都、と言うところも京都好きの作者らしいし、僻地の鹿児島と都会の京都をいい感じに対比させて、田舎から出てきて都会で活躍し、やがて田舎に戻っていた主人公の成長物語としての世界観を表現していると思いました。
なかなかナイスな演出だと思う。

やっぱりあれは脚本家の勝手な演出だったのですね。
何も、子供達がおやつ欲しさに磯庭園に忍び込むとか(そんなことしたら、いくら子供でも不敬罪でお家取りつぶしだと思うよ)、ジョン万次郎を保護して島津斉彬に紹介したのが西郷さんだった、とか、そんな嘘八百を無理して並べ立てなくても、そのまま素直に、原作通りに脚本にすればよかったのに。
原作自体、ちょっと違う角度で切り込んでいるので、そのまま映像化しても面白く観られたと思います。
てか、その方が良かったよ、絶対。
俳優さんも、原作も良かったのに、、、と言うパターンですかね。

貧しいけれど勉強のできる少年が、周りの大人に教えられ、上の人間に引き立ててもらって色々なことを吸収して成長。
やがて挫折を経て、功をなす。
しかし、時代の流れに翻弄されて非業の最期を遂げる。
と言う成長物語として面白く読めました。
大久保利通との対比のためか、その死に様からか、武闘派のイメージが先行している人ですが、実は勉学で斉彬に取り立てられた人であったことにも触れています。。

母親であっても長男には敬語で話しかけなくてはならない、鹿児島特有(?)の男女差別のこととか、郷中教育に代表される教育制度の話もちゃんと書かれているし。
(糸さん一人に暑苦しい男ども多数という、時代遅れの学園モノか戦隊モノみたいな話にする必要、あったのだろうか?)

月照との”やおいの世界”も、普通に読めたけどな。
いっそ、少年時代は男の子しか出てこない『風と木の詩』風にしても良かったのに。
などと、勝手なことを思ってしまいました。

素直にすくすくとまっすぐに育っても、やがて世間を知り様々な波に揉まれて、徐々に暗黒面にも触れていく西郷さんの姿も、自然に描かれていて、『そうなんだろうな人の考えってこんな風に移り変わるんだろうな』と思える。
その辺りは、さすが文学者です。

今までほとんど取り上げられてこなかった、お虎さん(別名豚姫)の話もいい箸休め的なエピソードになってます。
さすがに西郷さんとの別れのシーンはちょっと引くけど、まあ、そこは林真理子さんだから、許してあげよう。

総じて、嘘ばっかり並べているドラマと違って、ちゃんと資料を読み込んで史実に忠実に書いている印象でした。
幕末って、本当にややこしくて、当時の立役者たちにしても、言うことも行動もころころ変えてるから、そこをどう解釈するかは意見が分かれるところだと思うのですが、読みやすくまとめている、と思いました。
大政奉還後、明治時代になってからの話は少々端折っている感がしなくもなかったけど、彼女が書きたかったのは、西郷吉之助という男性を取り巻く女性たち、だったのだからそこは仕方ない。

最後の西郷さんの次男(本当は長男)の菊次郎が、父は区切りの人として死んだのだ、と思い出を語るシーンが良かったです。

ところで、四月から南日本新聞で連載中の桐野作人作『曙の獅子』が、同じように幕末を扱っていて、こちらは小松帯刀の従者の相良金次郎という架空の人物が主人公なのだけれど、こっちの方が、断然面白い。
本になったら、絶対買おうと思います。