アーサー王 最後の戦い〜サトクリフ・オリジナル
いよいよ最終章。
目次
第1章:扉の外の闇
第2章:毒りんご
第3章:五月祭
第4章:王妃の部屋にて
第5章:二つの城
第6章:王位を奪うもの
第7章:最後の戦い
第8章:りんごの樹の茂るアヴァロン
訳者あとがき
アーサー王の円卓に、モルドレッドがやってきます。
終わりの始まりってやつですね。
アーサー王物語の最初の方で、アーサーがモルゴースの策略に嵌められて、もうけた子供です。
母から密かに、アーサー王を破滅させるよう、指示を受けていました。
それだけでなく、王位簒奪の野望もあったみたいです。
モルドレッドは宮廷に入るなり、ランスロットとグウィネヴィアの関係に気づきます。
この頃になると、ランスロットとグウィネヴィアは、お互いの気持ちを抑えるのをやめているようです。
ランスロットとしては、聖杯の冒険で、あれだけ苦労してグウィネヴィアへの気持ちを断ち切ろうとしたのに、聖杯にダメ出しされたせいで、やけになっちゃったんでしょうか。
グウィネヴィアも、ランスロットの息子ガラハッドを現実に見て、嫉妬からその気になったのか?
逃げられると、追いたくなる心理でしょうかね。
アーサー王はそんな二人の関係を、表向きは知らないことにすることで、宮廷内の秩序を保っていたのでした。
モルドレッドは、危うい三人の関係を利用して、アーサー王の宮廷をかき乱そうとします。
雰囲気が悪いのを感じ取ったランスロットは、例によって宮廷から距離を置くことに。
聖杯の冒険でも一緒だったボールスにだけ、自分がどこにいるかを告げて姿を消します。
しかし、モルドレッドはそのくらいではめげません。
ピネルを焚き付けて、グウィネヴィア主催の晩餐会でガウェイン暗殺を企てます。
ガウェインはアーサーに忠実だったので、邪魔だったのです。
りんご大好きガウェインのために、グウィネヴィアがわざわざ用意したりんごには毒が塗られていました。
ところが死んだのはパトリスでした。
予定外だったけど、機を利用するのに才能あるモルドレッド。
グウィネヴィアを、犯人に仕立て上げます。
疑われたら、疑いを晴らすために誰かが彼女の代わりに戦わないといけません。
なのにグウィネヴィアときたら、肝心の時に、自己弁護もせずに思わせぶりに失神しちゃう。
そんなだから、騎士たちもグウィネヴィアの潔白を、信じられません。
危機を知らされ、帰ってくるランスロット。
正体を隠すため、白馬にまたがり身元を示す盾をあえて持たず、黒一色の出で立ち。
黒と白のモノトーンで決めて、意外と地味派手好みなランスロット。
ここぞというときは、必ず白馬を選択している。
あっさりと、告発の騎士マードルを倒すランスロット。
でも自分がいると、騎士たちの結束が守れないことを知っているランスロットはまたもや姿を消します。
気分転換に、若い侍女と騎士たちのために、合同ハイキングを企画するグウィネヴィア。
王妃たるもの、夫の部下達の福利厚生にも気を配らねば。
ところが、グウィネヴィアに邪な気持ちを抱いていた、メリアグランスという城主に誘拐されてしまいます。
なんかするたびに、揉め事の原因になってます。
またもや救出にやってくるランスロット。
今度は一騎打ちではなくて、お城攻め。
乗っていた馬を、待ち伏せしていた軍団に殺されてしまい、歩くしか無くなるランスロット。
鎧や装備が重くて、馬じゃないと移動はとても無理。
中世の大方のお城と同様に、メリアグランスの城も高いところにありましたから、城までの道はずっと上り坂です。
でも、グウィネヴィアは助けなくちゃならないし。
そこに通りがかった荷馬車。
この際だから、荷馬車に乗せてもらうことにするランスロット。
当時、騎士が荷馬車に乗ることは恥で、荷馬車に乗せられている騎士というのは犯罪を犯して処刑される時だけだったので、かなりの思い切り。
ランスロット、吹っ切れてます。
無事に城までたどり着くと、本領発揮とばかり暴れまわるランスロット。
メリアグランスは、あえなく降参します。
改めて馬上試合で、ことの決着をつけることになります。
が、メリアグランスは勝てそうにないので、小狡い手を使ってランスロットを地下牢に幽閉。
いよいよ試合の時間が近づきます。
ランスロットの世話をしていた乙女が、情にほだされて逃がしてくれます。
あわやというところで、登場。
やっぱり白馬にまたがってるし。
しかも、左手を背中に縛った状態でメリアグランスを倒します。
このくだり、吟遊詩人が語るのを、子供だけでなく大人たちも、手に汗を握り固唾を飲んで、聞き入ったことでしょう。
さて、この試合のタイミングで、ハンガリーからサー・ウアという騎士がやってきます。
ウアは、呪いのため傷が癒える事なく苦しんでいました。
世に最高の騎士に、触れてもらうことで、傷が治ると言われてやってきたのでした。
宮廷中の騎士が触れても治らなかったのに、ランスロットが触れると、あら不思議、ウアは元気になりました。
これで、『世に最高の騎士』称号を取り戻して嬉し泣きのランスロット。
聖杯の冒険編では、ガラハットに取られてましたもんね。
今のところ、目論見がことごとく外れているモルドレッド。
しかしめげることなく、アーサー王をせっついて、ランスロットとグウィネヴィアを罠にはめることに成功。
ついに、不倫の現場に踏み込まれてしまった二人。
覚悟を決めて反撃し、血路を開くランスロット。
グウィネヴィアも連れてあわよくば駆け落ち、と思いきや、ここでグウィネヴィアは『私、仮にも王妃だし』と立場を優先して残ってしまいます。
アーサー王としては、立場上グウィネヴィアを処刑するしかなくなります。
一旦逃げたランスロットが、またもや派手に登場。
あわや、というところで、火刑に処せられる直前のグウィネヴィアを救い出します。
その際に、ガレスとガヘリスを殺してしまいます。
彼らはランスロットと戦いたくないので、あえて丸腰でいたのでした。
最高の騎士なんだから、丸腰の相手を倒すなんて、あり得ない。
と、無茶を言って怒り心頭のガウェイン。
ランスロット許すまじ、と、まじで怒ってます。
グウィネヴィアを連れたランスロットは、自分の領地に帰ります。
アーサー王の円卓の騎士の中には、アーサー王の親族以外にも、ランスロットの親族もたくさんいました。
彼らの多くがランスロットに味方して集まり、こうしてアーサー王の部下たちは、二つに分かれて戦うことになってしまいます。
言葉だけで、うまくアーサー王を誘導し、思い通りにコトを運んだモルドレッド。
我が手腕に自画自賛。
腕っ節だけが重用されたこの時代、モルドレッドのような才能は、まず評価されなかったでしょうから、心の中で『やったね』と思っていたはず。
さて、ランスロットもなんだかんだ言って勢力のある領主なので、いざ戦いとなるとアーサー王とは、互角の戦いとなります。
このままでは、お互いに疲弊して国は分裂、サクソン人たちの侵略を許してしまう。
そう思ったランスロットは、アーサー王にへ理屈を言って、とりあえずグウィネヴィアを返すことにします。
さらにアーサー王にもらった土地を離れ、元々の出身地ベンウィックへ隠居することに。
粛々と帰っていくグウィネヴィア。
それぞれの視点から物語を語ったら、面白そう。
事実は一つだけど、真実は各人それぞれ。
ところが、一旦和睦に承諾したものの、やっぱり迷いのあったアーサー王。
モルドレッドのいいなりに、再びランスロットに戦いを挑みます。
そうして海の向こうで、父王とランスロットがぐだぐだ戦って、お互いを消耗させている間に、モルドレッドは早速、ブリテン島を我がものにすべく、最後の策略に入ります。
まずは、アーサー王とランスロットが、共に戦闘で亡くなったと偽の手紙を作成。
王位を継ぐために、グウィネヴィアと結婚しようとします。
このあたり、イギリスの王位継承とか相続のルールがよくわからんのですが、グウィネヴィアはグウィネヴィアなりに人望があって、彼女が承諾した王でないと、人民が納得しなかったから、なのでしょうか。
ところが、さすがにグウィネヴィアもモルドレッドの言い分はおかしいと、判断。
一旦は承諾したふりをして、モルドレッドを油断させ、ロンドンに逃げ込みます。
ロンドン城主サー・ガラガルスの助けを借りて、城に立てこもるグウィネヴィア。
そこで、モルドレッドは大司教デュブリシウスを脅して、無理やり即位しようとしますが、応じません。
デュブリシウスは密かに、モルドレッドを呪います。
呪いって、キリスト教の範疇だった?
魔法使いマーリンと違って、自分には呪いの力がないらしい、と無力感にかられたデュプリシウスは、密かに脱走。
”りんごの樹のアヴァロン”に隠遁します。
アーサー王はグウィネヴィアからの手紙で、モルドレッドの反乱を知り、ブリテン島に取って返します。
迎え撃つモルドレッドの軍を敗走させ、その後を追うアーサー王。
モルドレッドは、あんまり実戦向きではなかったみたいですね。
それでもしぶとく、支援者を頼って逃げていくモルドレッド。
アーサー王は、とうとう”カムランの野”にモルドレッドを追い詰めます。
ここはかつてマーリンが予言した、終焉の地でした。
もうこの辺りになると、アーサー王、自棄のやんぱち状態。
瀕死のガウェインが、今際の際にランスロットへ手紙を送ましたが、それを読んだランスロットが、援軍を連れてやってくるのを待たずに、モルドレッドと戦いを挑み、相打ちになります。
せっかく、死後の世界から戻ってきたガウェインが
『一か月もたせたら、絶対、ランスロットが来るから、一か月だけ引き延ばせ』
と助言してくれたのに、休戦協定の場で、お間抜けな騎士が剣を抜いたせいで、全てがおじゃんになります。
ここでは騎士は蛇に噛まれて、つい剣を抜いちゃったことになってます。
大事の前には、部下への命令伝達はきっちり行き渡らせておかないと、いけないってことですね。
武勇では、それほどの評価をもらってなかったモルドレッドですが、その最期は、なかなかに骨がある。
アーサーの槍に刺し抜かれたまま、自分から前に進み、絶命前にアーサーに致命的な一撃を与えます。
とうとう、瀕死の重傷を負ったアーサー王。
付き添っていたベディヴィエールに命じて、魔法剣エクスカリバーを湖の精に返し、自らも湖に身を葬ります。
その時迎えにきたのが、三人の女性。
なぜか妖姫モルガンもいる。
彼女は、運命の意匠を描くために、敢えて悪役を演じていたらしい。
『ブリテンが絶体絶命の危機に瀕したら、戻ってくるから』
と言い残してアーサーは、船に乗って行ってしまいます。
一か月後、やっとやってきたランスロットは、全てが終わっていることを知ります。
とりあえずは、グウィネヴィアの消息を探してロンドンへ。
残念ながら、彼女はロンドンから姿を消していました。
さらに放浪するランスロット。
アームズベリーに着いて、とある修道院に泊まったところ、そこの修道女となっていたグウィネヴィアに再会。
この世界では、還俗、という手は使えなかったらしい。
てか、使えたけど、もうその気の無くなってるグウィネヴィア。
がっくりきたランスロットは、今度はアーサー王の消息を辿って、アヴァロンを探します。
やがて”りんごの樹”の庵で隠者生活をしている、デュプリシウスに再会。
そこで、一緒に隠遁生活を送ることにします。
もう国とか政治とか、どうでもよくなってます。
そこに、弟のエクトルやら、ベディヴィエールやらの騎士達も集まってきて、みんなで同窓会状態。
やがて、草葺の粗末な礼拝堂は、石造りの立派な教会となり、人はそこをグラストンベリーと呼んだのでした。
彼らは、そこで死ぬまで、こころ穏やかに隠遁生活を送りましたとさ。
完