とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

介護は“情け”で回っている


そのお年寄りは、随分前に倒れて以来、ほぼ寝たきりの方。
いつ行っても、ベッドの上でうとうとされている状況。
でも、声をかけたら、目を開けてにっこりされるし、聴診器をあてると、両手を合わせて拝む仕草をされます。

大人しくて、穏やかな寝たきりさんに一見思えるのですが、介護しているご家族からすると、『と〜んでもない!』

わがままで、文句ばかりで大変。

だそうです。
そう言うものなのでしょうね。
私たち他人にはお行儀良くても、身内だとつい甘えが出るんでしょうね。
義理の両親を見てるから、よくわかる。

ご家族さんの愚痴は、始まるとひとしきり続くことが多いです。
きっと、誰にでも言えることじゃ無いし、ひとりで悶々と抱え込んでいたりもするんだろうな。

日々の些細なことは、ほんとうにささやかで、いちいち腹をたてるのも筋違いな気がするくらい。
でも、そのちょっとした行き違いや、イライラや、腹立ちはそれぞれは小さな塵みたいであっても、やっぱり塵は塵ですから長い時間の間にはじわじわと溜まっていつのまにか大きなストレスになっていたりする。

そうやって、溜まっていった澱みたいなストレスがいずれ臨界点を迎えて爆発してしまうと、介護放棄だったり、家族崩壊だったり。
それはよくわかっているのです。
わかっているけど、どうしたらいいのか、と言うと“こうすればいいのよ”という答えはありません。

他人様には『在宅医療をやっておりまして』などと偉そうなことを言っているくせに、所詮本体は信楽焼の狸。
こんな感じで、聞いているしか無い。

そのうち、ご家族さんがふと思い出したようにおっしゃいました。
「この前なんかね、夜中にオムツが臭ってて、あ〜まただわ〜って思って。本人は寝ぼけてるみたいでね。だから、ちょっと冗談で『〇〇さん、オムツ確認しますね〜っ』て、施設の人の真似して言ったんですよぉ」
ふんふん
「そしたらね、それまで、でれっとしてたのが、急にしゃきっとなっちゃってね。『はいっ、おねがいしますっ』だって(笑)。本当に施設の人だと思ったみたい。その晩は、オムツ替えの時もおとなしくて、文句一つ言わないし、最後には『いつもいつもお手間をおかけします』だって、家じゃ、そんなことひとっことも言わないのに、、、」
あ〜、そうなんだ〜。
「、、、だけど、なんだかその様子見てたらね、この人、施設や病院じゃあ、こんな風にいつも緊張して気を使って暮らしてたんだろうなぁって思っちゃって、そしたらなんだか、ちょっとかわいそうな気がしてしまいましてね。こんな歳になって、周りに気を使って暮らすのもねぇ。だったら、ちょっとくらい我慢しても家で見てあげようかな、って思ったりもしましてね」

ああ、ありがとうございます。
利用者さんはきっと口が裂けても言わないでしょうから、私が代わってお礼申し上げます。
本当にありがたいご家族さんです。

こういうのを、表現するとしたらやっぱり“情け”という言葉でしょうか。

介護の世界はこの“情け”で回っているのです。