とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

転ぶといけないので歩かせないでください、という家族

先日、訪問したある施設。
新しく入った利用者さんの診察でした。
ずっと独り暮らしをしていたけれど、最近になって家族が心配して施設に入居を決めたとのこと。

ずっと一人でやってきただけに、しっかりした方です。
歩き方もおぼつかないけど、伝い歩きでちゃんと移動できます。
自分で転ばないよう工夫されてます。
お金の管理だってできるし、薬だって自分でちゃんと管理して飲めます。

それでも、遠方に住んでいる身内からすると心配なんでしょうね。

一人ぼっちで暮らしていたら、振り込め詐欺に合わないかとか、家事でも出したらどうしようとか、転んで怪我でもされたら、とかとか。
一人じゃ寂しいだろうし、若い人がいて面倒を見てくれる施設の方が安心だしよ、そう言って預けていくのです。

本人も、息子や娘がそういって心配してくれると、自分もなんだか不安だし、近所や親戚のあれやらこれやらを聞いているから、やっぱり施設がいいね、といって入ってくることもあります。

そして、預ける家族の希望。
転ぶといけないので、一人で歩かせないでください。
移動するときは車椅子にしてください。
なるべく用事のないときは、部屋から出さないでください。

そう頼むご家族さんに悪気はないと思うのです(てか、そう信じたい)。
でもね、歩かなくなったらお年寄りは一気に弱ります。
そして呆けます。
ときには、老人性うつ病になります。
高齢者が鬱になると、なかなか良くなりません。

高齢者の健康は、歩いてなんぼ。

考えても見てください。
自分で好きなところに行きたいのに、歩いちゃダメで、誰かに車椅子を押してもらわないと、トイレにもいけない生活なんて、送りたいですか?
その気になれば歩けるのに、ですよ?

部屋から出してもらえずに、閉じ込められてて嬉しいですか?
好きなだけテレビ見てていいよ、って言われたってね。
耳の遠くなって目もよく見えなくなったら、テレビ見たって楽しくないし。

うがった見方をさせていたくと、そういうことを言う家族さんは、結局、お年寄りが転んだり、その結果怪我したりして、いちいち呼び出されるのが面倒なんでしょう。
その度に、入院だの、手術だので来ないといけないですものね。
たしかに遠方に住んでて、仕事も忙しかったりしたら、生活に追われている毎日だとしたら、大変なの、よくわかります。

でもねそれでもやっぱり、せっかく歩けて、元気なお年寄りを、怪我が心配だからだと閉じ込めたり、行動を抑制するのはどうか、と思いませんか。
もし、自分だったら?
もし、お年寄りじゃなくて子供だったら?
元気な子供を、無理やり車椅子に縛り付けて歩かせないようにして、部屋に閉じ込めて誰にも会わせないようにしてたら、それは虐待、ですよね。

お年寄りだって、よちよち歩きしかできないかもしれないけど、歩けるし、部屋から出て人と触れ合いたいんです。

お年寄りですからね、どんなに元アスリートで身体機能が高くたって、いつか、どこかの時点で転ぶかもしれません。転んだら怪我もするかもしれません。
でも、好きなように歩いて、好きなように行動して転んだら、もう仕方ない、そう思いませんか?
だから、歩かせない、部屋から出さない、なんて言わないでほしいです。
もちろん、ちゃんと転ばないよう歩行器を使ったりもするし、杖を使ったりもするし、リハビリだってするし。
スタッフだって気を配ってくれてます。
施設の部屋は、お年寄りが転びにくいよう手すりや床材などなど、色々工夫もされていますよ。

転んじゃったら、仕方ない。
怪我しちゃったら仕方ない。
家に居ても、家族がいても、どんなに熟練した介護士がいても、転ぶときは転ぶし怪我をするときは怪我をするんです。

世の中100%安全なんてない、でしょ?

ふつうに道を歩いていて、こちらに何の非もなくても、車に突っ込まれたり、テロ犯に狙撃されたりすることだってあるでしょ?
もう少し、お年寄りの身になってほしいな、と思うのです。

うちの院長はよく言ってます。
『年寄りはね、歩けるうちは歩いた方がいいのよ。
いつまでも歩けるわけじゃないんだから。
来年は、もう歩けないかもしれない。
だから、歩かせなさい。
そんで、歩けば転ぶのよ。
転べば、怪我するのよ。
それが、年寄りなのよ』

そうして何回か転んで、その度に寝込んだりして、だんだん弱って最後は寝たきりになっていくのです。
わざわざ元気なお年寄りを、今から寝たきりにしてどうしますか?

寝たきりになってから、寿命が来るまでの時間ばかりを、無駄に伸ばしてどうしますか?
少しでも元気でいられる時間を伸ばしてあげる方が、親孝行だと思いませんか?