とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

年月日

飲み仲間のA子ちゃんが、手術をしました。
もうね、そう言うお年頃なんですね、お互いに。
快気祝いの飲み会で、この本を進呈しましたの。
犬好き必泣本、だそうです。
私は猫派なのですが、やっぱりうるっと来ました。
A子ちゃんとこは、最近、愛犬を看取ったばかりだから、そっちの癒しにもなるかなぁ、と思いまして。
旦那さんも犬好きだから、ちょうど良いか、と。

そしたら、後日、大絶賛いただきました。

ご主人は当直の夜にうっかり読んでしまって、そのあと看護師さん相手に涙の跡を隠すのに苦労したとか(笑)。

雰囲気としては、ガルシア・マルケス百年の孤独風に、老人と海の農夫バージョンを、中国を舞台に描いた作品。
なんかこの説明じゃ、余計に訳が分からなくなりそうだな。

この人の作品は、寓話っぽい話が多い。
田舎の寒村で構成員が全員、泥棒と娼婦になったおかげで経済発展して市に昇格したある架空の市の歴史とか、障害者だけが住む特別区の人々がその障害とさらにその障害を上回る超能力で、稼ぎまくる話とか。
けっこう思わせぶりだし、皮肉が効いていて、癖がある。
本国では、何度も発禁処分を受けている人らしい。
中国の作家さんだけに、漢字も多いし、表現も個性的。
嫌いじゃないけど、ちょっとしんどい。
でもこの本は他の作品ほどに、皮肉たっぷりに何かを批判している臭がなくて、肩に力を入れずに読めます。

舞台はやっぱりとある中国の寒村。
昔々で始まる、おとぎ話。
日照りが続き、村人たちは村と畑を捨てて移住をすることになります。
ところがその旅立ちの日、主人公の先じいは一本だけトウモロコシが成長しているのを見つけ、そのトウモロコシを守るため、一人村に残ることにします。

この日照りの表現がものすごい、

年月は炙られ、ほんの一捻りで灰のようにんボロボロ崩れ、日々は燃えている炭のようにはりつき、手のひらをジリジリと焼いていった。

と、読んだだけで暑くて、ぐったりしてしまいそうです。

そんな暑さの中、一緒に残った盲目の犬と共に先じいはトウモロコシの世話をしています。

この爺さん、あんまり人好きのする性格ではなさそうです。
ずっと忠実についてくれてる犬も蹴飛ばしたりするし、つむじ風に癇癪起こしたりするし。
けっこう頑固で怒りっぽい感じです。
でも、自分が間違っているとすぐ謝るから、なかなかに素直なところもある。

そして、トウモロコシを溺愛している。

この先じいが命をかけて守るトウモロコシは、やはり何かの象徴だろうか。
この人の作品は、こんな感じで深読みしないといけない気分にさせられるのが、ちょっとくたびれる。

とにかく盲目の犬と先じいは、トウモロコシを育てます。

育てるといっても、水をやって、照りつける太陽や風から(雨は降らないので)守ってやる程度なのですが、それより何より、住む人のいなくなった村で、一人生き延びる先じいの日々の生活描写が壮絶。

井戸の水も枯れ、食べ物もなくなり、大発生したネズミに怯え、ついにはそのネズミを食べて、とにかく生き延びる先じい。
この辺りになると、もうサバイバル物状態。
文章が神話っぽくて、時にユーモラスなので、すいすい読んでしまうけど、実はかなり殺伐とした状況です。

特に水を求めて山奥に入り、泉から水を汲んで帰る途中、狼のむれに囲まれる場面は、手に汗を握る。
下手なアクションものよりどきどきします。
ただの痩せこけたおじいさんVS同じように飢えて痩せこけた狼なのですが、それがゆえに切迫感と臨場感がありますした。
恐怖のあまり、失禁していることに気がつくシーンも、
『もういいよ、先じい、よく頑張ったやん』
と言いたくなる。

そうして苦労して育てたトウモロコシが、もうすぐ実るというころ、ついに先じいは力尽きます。
食べ物もついになくなり、水はトウモロコシに取っておかねばならず、と言ってもう何処へも行けず。

先じいは、墓を掘ります。
あとは、相棒の犬を食べて生き延びて、トウモロコシを守るか、自分を犬に食べさせてトウモロコシの世話をさせるか。

先じいが、犬に自分を食べさせるか、犬を殺して食べて自分が生き延びるか、迷うところ(何度か迷うのですが)で使うのが、古い銅銭のコイントス
毎回、なぜか犬が生き延びるほうに、結果が出る。

エピローグで、村人が帰って来て、先じいが守り育てたトウモロコシと、先じいと犬の骨を見つけた時、その銅銭も見つかります。
何と、その銅銭は両方に文字が彫られていた。
実はイカサマ銅銭だったのでした。
先じいがそれを知らないわけはなさそうですが、もしかしたら、老眼でよく見えてなかったのか?
とにかく知ってか知らずか、毎回、犬が生き延びるほうへ出していたんですね。

最後に先じいと犬のどちらが、後まで生き残ったのかはっきりとは書かれていないのですが、村人が見つけた時、どちらも虫に食われて穴だらけになっていた、とあるのと、話の流れでは先じいがどうも先に亡くなったらしいところから、犬は死んだ先じいの身体を食べたりせず、そのまま付き添って飢え死にしたものと思われます。

このあたりで、犬好きは号泣する、ものと思われます。

私もうるっとしちゃった。
話全体が神話っぽくて、それより何より、日照りの過酷さと暑さの表現がすごくて、読んでいるだけでカラカラ干からびてきそうな作品です。

この夏は、今までにない暑い夏なので、読むと臨場感いっぱいで、より暑さを満喫できそうな気がします。