とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

すぐ死ぬんだから

内館牧子の新作です。
以前読んだ『終わった人』の続編、と言うかアンサー小説というか。

そういえば『終わった人』は映画化されていたんですね。
その内、テレビでも放送されるかも。
ちょっと観てみたい。

さて、今回の主人公は78歳の女性です。
奇しくも母親と同じ年齢でした。
つい、実在の母と比べて読んでしまう。

主人公ハナは、酒屋のおかみさんを長いことしてきて、今は息子に経営も譲り、そこそこの蓄えもあって、悠々自適に暮らしています。
そして彼女が追求しているのが、アンチエイジング
とにかく年より若く見せるため見られるために、あらゆる努力を惜しまずしています。
そのきっかけとなったある出来事が、瑣末そうに見えて女性ならば『わかる、わかる!!』と同感間違いなしなこと。
こういうところさすが女流作家さん、わかってます。

おしゃれにも健康にも気を使い、老けこまないよう日々努力し、背筋をピンと伸ばして生きている彼女を『俺のいちばんの幸せはハナと結婚したことだ』と、臆面もなく褒めるような愛妻家の夫とそれなりに幸せな生活を送るハナ。

日々、街で見かける老け込んだ老人や、垢抜けない長男の嫁を心の中でディスって過ごしています。

これだけだと、なんだか独りよがりで鼻持ちならないただのイジワル婆さん、なのですが、そんなハナに思ってもみなかった不幸が襲いかかります。

まず、夫が急死。
そのショックから、セルフネグレクトに近い状態になるハナ。
こう言う時に、支えてくれる友達がいないのが痛かった。
家族が何かと気にかけてくれるけど、やっぱり同年齢の人間でないと理解できないこと、共感できないことってありますよね。
そしてやっと立ち直りかけたと思ったら、なんとその急死した夫には愛人がいて、おまけに子供まで成していたという、衝撃の事実。

ここからぐうんと、話が面白くなる。

相手の愛人はハナより10歳下。
常に彼女が68歳だったら、あれもできたこれもできた、と未練がましくおもっている、その68歳。
さらにハナの天敵ともいうべき、ナチュラル系清楚派。
その上、女医さんでバリバリのキャリアウーマン。
あえてシングルマザーの道を選び、子供を立派に育ててます。
そしてその子供といえば、ボンクラなハナの長男と大違いの、超がつくイケメン且つ頭脳優秀なエリート君。
夫との関係は、夫の今は亡き親友の可愛がっていた年の離れた妹、で、夫とはハナよりも前からの知り合いだった。
という、渡辺淳一ばりの純愛系不倫関係。

主人公、負けてます、負けてます。

だけど、この降って湧いた危機的状況のおかげで、見事立ち直ったハナ。
気合いを入れてエステで肌やネイルを整え、センス良く装って愛人に立ち向かいます。
本当に高級スーツは女性のガンダムスーツ、とはよく言ったもの。
(小説の中で言っている言葉ではありませんが)

そして、愛人とのやりとりの一つ一つに勝ったの、負けたのとジャッジをするハナ。
この辺り、主人公の喧嘩上等の江戸っ子気風を感じさせます。
内容に嫌味がないのは、作家さんの文章のキレがいいからか。
この作家さんの文章、きびきびとした江戸っ子風で、すごく読みやすい。
もう一気に読んでしまいます。

ハナは気が強くて、他人に手厳しくてある意味、いじわるばあさんだけど、意外と客観的で公平。
裏切られて、はらわたが煮えくりかえりつつも、岩造の行動を分析したり、愛人である薫に惹かれた理由を評価してたりする。
喧嘩上等だけど、相手をとことんまで追い詰めない、引き際が綺麗です。
そして、なんだかんだ言って情がある。

タイトルにもなっていて、ハナが事あるごとに使う『すぐ死ぬんだから』は、投げやりな年寄りの言葉ではなく、前向きな言葉として使われてる。

最後はいい感じに、八方丸く収まり、後味も悪くない小説でした。

随所に、年をとる上での心構えについての鋭い言葉が投げかけられており、いい勉強になります。
ハナは友達がいないけど、そのせいか一時期危ない状況にもなるけど、ちゃんとそこから復活します。
今まで仕事と家庭でいっぱいいっぱいで、そういえば友達がいないなぁと、我が身を振り返ってしまうことの多い私ですが、友達いなくても大丈夫、と勇気が出ます。

ハナのような衝撃の事実はいらないけれど、いずれは彼女のように強くてしなやかな年寄りになれるよう、日々、努力の方向を間違えないよう生きていこう、と思ったのでした。

しかし考えてみると、ハナが自分よりも年下の愛人と臆面もなくぶつかり合えたのも、自分のセンスや出で立ちに自信があったから。
その自信は、と言うと、例えば銀座を歩いていればファッション雑誌の取材を申し込まれ、例えば同窓会では同性から嫌味を言われつつ男性からはちやほやされ、と言う体験から来ています。
そういえば、近所の人からは整形疑惑までかけられてましたっけね。
そこまでの境地に達するには、素材の良さと才能も必要な気がする。
そして、やっぱり先立つものはお金、なのかなぁ。

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