とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

センスの問題

多分どの世界でも一緒だと思うのだけど、職場や業務内容によって”優先されるもの”がある、と思う。

例えば、手術場ではまさに『兵は拙速を尊ぶ*』。
多少、雑でも早くて確実なのが優先されます。
いきなり怒鳴られたり、理不尽な怒られ方をすることもあるのも、いちいち、それぞれの事情や、状況を考慮して動いている場合じゃないことが多いから。

さて、その時間の進み方が超高速な手術室でのこと。

ある日のこと、担当の看護師さんが、搬入時間が遅れるという連絡をしてきました。
それ自体はよくあること。
何かしらややこしい理由でした。
その後、あれこれあって、結局、病棟である処置を済ませてから手術室に来ることになりました。
『20分くらいの遅れになります』
と言われ、待っていたけど1時間待ってもなんの音沙汰もないので、仕方ないから麻酔医用のタコ部屋に戻ったら、その日の手術場責任者が不思議そうな顔を。
『あれ、まだ入室ないんですか?』
と言われたので、聞いてなかったのかな?**と思いつつ、『かくかくしかじかで、遅れてまして』と答えたら、『しまった〜やられた〜』と頭を抱えた。
聞けば、その処置自体手術場でもできるし、そのほうが格段に早いのに、なぜか、その看護師さんはそのことに思い当たりもしないで、病棟ですべきと判断しちゃったらしい。
手続き上はちゃんとしているのですが、何が一番優先されるべきか(患者さんの安全が一番ですけど、それを考えるなら、なおのこと手術場ですべき処置だったのです)その看護師さんはわかってなかった模様。
『こういうセンスのない人に、わかってもらうにはどうしたらいいんでしょうかね?』
と珍しく深刻な顔になる上司。
彼は若手育成のために、わざわざ教育関係の学位を大学院まで行って取得した、というほどの自他共に認める”教え好き”。

私も、本当に色々教えいていただきました。
現在、なんとかかんとか、このバイトで仕事が続いているのも彼のおかげです。

その上司ですら、頭を抱えさせてしまうほどの『問題のある』その看護師さんは、実は経験年数もあり、中堅どころのベテランだったりする。
手術室勤務も長い(というか他で働いたことがない純粋培養らしい)し、独身で仕事一筋でやってきた真面目な人材ですが、確かに、仕事ぶりを見ていると、どこかピントが外れている人ではある。
だけど、本人は仕事ができるつもり。
普段の言葉の端々に、その自信がにじみ出ているもの。
だけど周りから『なんだかな』と思われてしまっているのだろうな。
だって時々口さがない若手が『〇〇さん、何やってるんですかね』とか『〇〇さんのやってること意味なくないすか』みたいな感じで、つい口走っているのを耳にするもの。
はっきり上司が頭を抱えているのを見たのは、今回が初めてだったけど、上司の口ぶりからは、前から色々あったらしい。

はっきり言って、センスの問題なんですよね。
と上司たち。
こういう時、気の利く看護師さんなら『手術場でいつもやっている処置をなんでわざわざ病棟でやるんだろう、とか、病棟だとどう言った手順でやるんだろう、とか不思議に思うはずなんですよ。
で、聞いてみて、あ、それなら、こっちでやりますから、すぐ下ろしてください』って言えると思うんですけどね〜。
とぼやく上司。
その気配り、ちょっとした疑問、そういうものが生じないところに、その看護師さんのセンスのなさが出ちゃったんですね。
なまじ経験年数も長くて、自分は仕事ができると思っているので、プライドも高くて指導がしにくいそうです。

そうなんだなぁ。

センスって、あるかどうかは、実は本人にはわかり得ないものなのかもしれません。
くだんの看護師さんは『自分はこの仕事に向いているしセンスもバッチリ。自分は仕事のできる術場ナース』という自己認識のもとに働いているのだと思うのです。
それなりに仕事はそつなくこなしているけど、時々周りが首を傾げたり、上司が頭を抱えている。
職場も大変だけど、ある意味、本人もかわいそうかもな。
どこが悪いか、誰からも注意してもらえないから。

と、他人事のように聞きつつも、我が身を振り返ってみる。
私はどうなのだろう?
そういえば、『センスがある』とか、『向いている』と思えた仕事や職場なんて皆無だったな。
どこへ行っても、何をやっても『なんでこんなに鈍臭いのだろう、いつまでたっても上達しないし』と思いつつ、周りがなんだかんだとサポートしてくれたのでやってこれた。
センスはないけど、愛想は良い。
これで乗り越えてきた気もします。

この先、まだまだ働く、いや働かねばならない人生。
下手に、センス、などなくて、おかげでそれに頼ることなくやっていく処世術を身につけるしかなかったのは、回り道のようで正しかったのかもしれません。
この看護師さんを、こっそり反面教師にして、ちゃんとダメなところはダメだと言ってもらえるような人材になれるよう心がけねば、と珍しく殊勝な気持ちになったのでした。



兵は拙速を尊ぶ*
本当は『兵は拙速を聞く』が正しいそうです。
『多少難のある作戦でも、早くやって勝利を掴んだ方が勝ち』という意味は一緒だそうです。

聞いてなかった?**
手術場の動きは、常に連絡。一に連絡、二に連絡、三、四がなくて、、、というくらい、連絡が重要視されます。
そして、必ず術場責任者には連絡が逐一行くことになっている。
結論がすぐに出ない時も、その時点での決まったことが報告されるのが決まりです。
だから、術場責任者の院内PHSは、片時も休むことなく鳴っている。
時々、どうしても繋がらなくて、直接、探されたりもしているし、トイレからも携帯で会話しながら出てくるのを見かけたりすると、本当に大変だな、と思う。
私はお気楽なバイトでよかった。
院内PHSなんて、ここ数年持ってないものね。