とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

嚥下内視鏡検査ってなに?


最近、うちのクリニックで始めることになった検査。
嚥下内視鏡検査(Videoendoscopy)略してVE。
検査一式、さくっと院長が買ってくれました。

ということで、いろいろお勉強中です。

口からご飯を食べる。
当たり前だけど、意外と当たり前すぎてなおざりにされがちなこと。

自然の状態ですと、口から摂取する以外に水分や栄養分を体に取り込むことは、まずありません。
だから、飲み込む機能が衰えて自力で飲み込むことができなくなると、あとは死ぬしかない。
野生の動物は、皆そうですよね。

ところが今の医療では、飲み込めなくなった人でも、様々な方法で栄養を身体に入れて、生かすことができます。

よく巷でいう、鼻から管を入れるとか、胃瘻とか、ですね。
あとは、高カロリー輸液なんてのもあります。
全部、やろうと思ば、施設でも在宅でもできます。
なので、例えば骨折や熱発をきっかけに入院すると、その入院中にちょっとでも嚥下に問題のありそうな人は、トラブル回避の目的で、経口摂取を禁止にされてしまいがち。
緊急の場合は仕方がないとしても、無事に帰ってきても、そのまま飲み込みの機能が衰えたままで、放置。

『食べさせたら死ぬからね』

と、時には脅迫じみたことを言われて、鼻からチューブを入れられたり、胃瘻を作って帰ってくる患者さんもいます。

だけど、本人は食べたいし、家族も食べさせたいし。

と言う時、うちの院長はあっさり、
『じゃあ、食べようよ』
と言ってしまう。

それで、意外と食べられるようになる人って、多いんです。
だってお腹すくし。
自宅だと、病院と違って本人もやる気が違ってくるらしいです。

それでも、
どんなものなら、食べても大丈夫なのかしら?
本当に、食べて大丈夫?

と不安は尽きません。
そんな時、自宅でもできるのがこの検査。

もう一つの検査法として、嚥下造影検査、と呼ばれるものがあります。
これはレントゲン室で、造影剤を混ぜ込んだ食べ物を食べてもらって、喉を通過する様子を造影写真で撮る、と言うもの。
まず、透視室と呼ばれる特殊なレントゲン室が必要で、食べ物の通過のタイミングで上手に撮影できる、腕の良い検査に慣れた検査技師さんが必要で、何より、患者さんも検査する人も重たい防護服を着て検査をしなくていけません。
だから、一部のリハビリ病院や大学病院レベルでしかできない。

そこへ行くと、内視鏡検査は胃カメラよりも細くてちっちゃなカメラとビデオカメラを持っていけばいいので、割とどこでもできて簡便です。

とは言うものの。

検査は具体的に言うと、鼻から細い管状のカメラを入れて行います。
これが、気持ち悪い。
認知症の進んだお年寄りなど、検査の目的が理解できない人はもちろん、よくよく検査の内容を説明されていても、やっぱり最初は『嫌〜っ』と顔がのけぞってしまう。
胃カメラだと麻酔で眠ってもらう、と言う技が使えるのですが、嚥下の検査は受ける人(被検者さん)に、食べ物を飲み込んでもらわないといけないので、はっきりと意識がある状態でないと、出来ない検査なのです。

そこを、なだめすかして、時には押さえつけて鼻から入れます。
そして喉をビデオカメラを通じてパソコン画面に映しながら、食べたり飲んだりしていただく。

これがね、結構難しいのですよ。

カメラの太さは約4mmほど。
ちょっと位置がずれると、画面が大きくぶれてしまう。
飲み込む能力が落ちている人ほど、唾液や痰が喉にいっぱい溜まっていて、その唾液がカメラにくっついて画像が歪んでしまう。

『はい、ごっくんしてね〜』

と言う指示も、理解できなかったり、カメラの違和感が強くてうまくできなかったり。

そんなこんなを乗り越えての検査は、だいたい五分程度。
ただ、セットアップや説明、片付けに、全部で一時間は必要です。

それでも、自宅でこの検査をするメリットは、介護に携わる人たち、みんなが情報を共有できること。
実際に飲み込んでもらった時、喉の中で何が起きているか、が目で見てわかるので、ご家族さんからも喜ばれることが多いです。

だいたい、ちゃんと飲み込めるのによくむせる、引っ掛ける、と言うお年寄りの場合、ご飯を口に入れる速さと、飲み込む速さのタイミングが合っていないことが多い。
本当はゆっくりと着実に飲み込んでから、次の食べ物を入れないといけないのに、口を開けては次々と入れてしまうので、飲み込むのが間に合わなくなって、吐き出してしまったり、むせてしまったりするのです。
そんな状態が一目瞭然なので、『ああ、そうなんだ』とわかってもらいやすい。
それに、ベタベタとひっつくようなものは、残りやすいとか、お豆腐みたいなものはばらけてしまうので、かえってうまく飲み込めないとか、それぞれの患者さんごとに違う”飲み込め方”も、わかったりします。

大学や大病院での検査の時は、万が一を考えてか、ご家族が立ち会えないことが多いらしいので、『初めて見ました』とおっしゃる家族さんもいます。

この検査の後、『飲み込みかたや食べ物の形態を工夫したら、むせることも、誤嚥性肺炎で熱を出すこともなくなりました〜』
なんて報告を聞くと、頑張って検査をした甲斐があったな、と思うのです。