とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

検査の結果はグレーゾーン


先日、嚥下内視鏡検査をして来ました。
患者さんは、別の在宅クリニックにかかっている方でしたが、そこのクリニックでは嚥下内視鏡検査ができないのでうちに紹介があったのでした。

もともと脳梗塞で半身に麻痺があり、つい最近も誤嚥して肺炎になり入院。
入院先では鼻から管を入れて(経鼻経管栄養と言います)その管を使って栄養分や薬を注入されていました。
その後、退院してこられましたが、鼻からの管は入ったままで退院されてきたので、抜いて良いかの判断材料にするため、と紹介されたのでした。

ご本人は『口から食べたい』と言う希望が強く、家族も少しでもいいから食べさせてあげたい、と言う希望でした。
口の動きや、咳反射、空嚥下(食べ物が何もない状態でもごっくんできるか)の状況など、見る限りでは十分飲み込みができそうな印象でした。

そして、検査の結果。

”多少は誤嚥しているものの、概ね飲み込めてる”
と言う結果でした。
具体的には、9割ほどはちゃんと食道へ送り込まれるのですが、少しだけ残ってしまって、それがたら〜りと気管に流れ込んで込んでしまう、と言う状況でした。
おそらく、前回の肺炎もこうして流れ込んだ食べ物が原因だったと思われます。

さて、ここで、この状態をどう判断するか。。。。。

私は”食べさせてもいい”と判断しました。
誤嚥は常に起きているので、絶対に肺炎にならないか?と問われたら『なるかもしれませんね』と、答えるしかありません。
でも、気管に入ったからと言って、すぐさま肺炎になるわけではない、ですし、ちゃんとご自分で『ごほごほっ』と咳をして、入ったものを出すこともできます。
家には吸引器も置かれていて、普段からも痰をご家族が上手に吸引除去されていました。
注意しながらゆっくり食べてもらえば、口からでも大丈夫そう。
それに人間、口から食べていないと、どんどん食べるのは下手になります。
三ヶ月くらい食べさせていない、と言うことでしたから、一旦経口で食べ始めたら、もっと上手に飲み込めそうでした。

それに何よりご本人が、検査食を食べたことで、口からの食事の美味しさを思い出したのか『もう、絶対に鼻から管を入れるのは嫌だ!!』とおっしゃいます。
『肺炎になってもいいから、口から食べたい!!!』

一緒に検査を見ていたご家族も、
『どのタイミングで食べたら、だいたい大丈夫なのかもわかったから、今一度、頑張らせてみたい』
と前向きです。

紹介いただいた方なので、主治医である紹介元のクリニック院長へ、電話連絡することにしました。
紹介元のクリニックは、嚥下訓練のための理学療法士を雇っているような施設でしたので、私もうっかり、嚥下については積極的な先生だとばっかり思ってしまっていたのが、いけませんでした。

誤嚥があるってことは、もう、経口摂取は無理ってことですよね』
と、電話口の声がかなり厳しい。

『いえ、絶対無理、とは言えないと思うのですが、、、、』
と私。
でも、まあ、確かに誤嚥はしている。
今の状態で『絶対に肺炎を起こさないです』と断言はできない。

『肺炎になるってことは、命に関わることですから。
経口摂取は、無理ってことでしょう』
と畳み掛けるように言い切る、院長先生。

でもなぁ。。。。

経鼻経管栄養にして口から食べなくても、唾液の分泌はあるし、管経由で胃に流し込んだ食べ物が、かえって管に沿って逆流して誤嚥することもあるので、経鼻経管だからって、絶対に肺炎にならない、とは同じく言い切れません。

その辺り、院長先生もわかっていらっしゃるとは思ったのですが、とにかく『もう口からは食べさせないことにするので、また鼻からの管を入れておいて下さい』の一点張りです。

普段やったことがないと、ピンとこないと思いますが、喉に管が入っていると、それだけでも飲み込みにくくなります。
だって、異物が喉に挟まっているんですよ。
ちょっと風邪をひいて喉に炎症があるだけで、すごく飲み込みづらくなりませんか?
だから、少しでも良い条件で飲み込みの検査ができるようにと、検査の時は鼻からの管も抜いていたのでした。

入れるのは、すぐ、ですしね。

だけど、今回はご本人さんが『もう絶対、絶対、入れたくないっ』と必死で言います。
主治医は、『また肺炎になったら、どうするんですか?』と譲らない。

私も心情としては、口から食べさせてあげたい。

食べているうちに、飲み込む力もついてきて、今より上手に飲み込める可能性も十分ある方です。
これが、本当に飲み込めない人だったら(残念ながらそう言う方もいらっしゃるのです)私も、『ごめんだけど、無理なのよ』と説得してでも鼻からまた管を入れたでしょう。
だけど、今回はなぁ、、、、。

と、困っていたら、結局、ご家族が一言。
『いいです、とにかくしばらくは(鼻からの管は)入れないで、頑張らせます。それで、肺炎になって苦しい思いをしたら、本人も諦めがつくでしょうから。本人が食べたい、って言ってるのに食べさせないのは可哀想ですし。また入れるのはすぐだしね』
とおっしゃって、入れない、ということでその日は終わりました。

確かに、肺炎になったら熱は出るし、息は苦しいし、で大変です。
何度も繰り返せば、いずれは命に関わることもあるかもしれない。
主治医の先生のご意見も、一般的には正論なのでしょう。
それに、今回は検査でお会いしただけの関係性ですから、以前からずっと関わってきた主治医の先生には、先生なりの思いもあるのかもしれません。

検査結果は、グレーゾーン。

担当医の解釈の仕方で、治療方針がずいぶん変わってしまう。

繰り返す肺炎で、寿命が短くなるかもしれないけど、その生きている間は好きに食べて楽しく暮らしてもらう、か。
肺炎になったら、抗生剤の点滴だってあるしね。
(私はこっち派です)

少しでも長生きして、家族との時間をたくさん持ってもらう、そのかわり、”食べる”と言う楽しみは諦めてもらう、か。
(絶対に肺炎にならない、と言う保証はない。それに、他の病気でやっぱり持ち時間はそれほど無い、かも知れない)


医療は後出しジャンケン的な要素が強くて、全部の結果が出た後になって、『あの時こうしていれば、ああしていれば』と言うことが多い。
その経過の最中に『今、最適な選択をしている』と言い切れることって、無い、としみじみ思ったのでした。



後で、上司であるうちの院長に報告がてら、
『(先方の)先生を怒らせてしまったかもしれません、すみませんでした』と謝ったら、
『そこは、考え方次第だから。うちだったら(経鼻胃管は)、抜いちゃうけどね』
と言ってくれました。