とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

良い加減にいいかげん

在宅介護の担い手となっているのは、ほとんどがお嫁さんだったり娘さんだったり、姉妹だったりと女性が圧倒的に多いのですが、男性が介護されていることもわりにあります。

病気に倒れた奥様を、旦那さんが介護してる。

印象としては、戦後生まれのいわゆる団塊の世代の方が多いような気がします。
もっと上の世代だと、最初から『介護なんて女のすること、俺には出来ん』と投げてしまうのかもしれませんが、真面目で真摯なご主人たちは、なんとか自分で頑張ろうとされています。

ただね、ちょっとその頑張りが空回りしてしまうことも、無きにしも非ず、なんですよね。

あるお宅でのこと。
病気でうまく食べ物が飲み込めなくなった奥様。
なんとか食べさせようと、必死のご主人。
毎日、毎食、食材をあれこれ吟味し、調理後は食べやすいようにミキサーにかけて離乳食風にしてあげます。
スプーンも上手に扱えない奥様のために、口元もまでスプーンで運んでは口に入れてあげる。
『ほら、もぐもぐして!』
『ほら、ごっくんして!』
いちいち言葉をかけないと、口に食べ物が入っていることも忘れてしまうそうです。
そうまでしても一度の食事で食べてくれるのは、ほんの数口。
あとは、食べない。
ご主人も大変です。

ところが、聞けばデイサービスで介護士さんに介助してもらっているときは、割とよく召し上がるらしい。
ほぼ10割食べたりもするらしい。
要するに、ムラがあるんですね。

だけど、ご主人にはそれが受け入れられない。
こんなに一生懸命やっているのに、なんで食べてくれないのだろう??
本当にね、私たちも思います。
奥様も少しは空気読んで、ご主人からも食べてくれたらいいのになぁ。

だけど、もう幼子に戻ってしまった奥様にとっては、時にご主人は大きな声で怒鳴りつける怖いおじさん、にしか見えないのかもしれません。

ご主人の焦る気持ちはよくわかるけど、こればっかりはどうしようもない。
なので、やっぱりこうなるしかない。

ええ、ひたすら聴いてるしか無い。
そんな時っだてあるんです。
ご主人だって、すごくすごく頑張っているんです。
なのに、ダメ出ししかされないなんて、そんなこと多分、今までの人生で経験したことなかったでしょうし。


こうしたご主人は、お一人ではありません。
他にも、お通じは毎日出ないとおかしい、と下剤を増やしすぎて奥様の体調がかえって悪くなってしまったお宅とか、体重が増えないからと毎日、体重を測っては、昨日より何グラムも減っている、と眉間にしわをよせてるご主人とか。
他にもまだまだ、熱が、血圧が、、。
もうね、『測るから気になるんですよ、測るのやめましょう』
とお話しすることも。

『患者とは、介護とは、こうあるべき』という思い込みが強いのは、男性に多いような気がします。

きっとお仕事されていたときは、とても優秀なビジネスマンだったのだと思います。
仕事もテキパキこなして、成果も出しておられたのでしょう。
でも、いざ相手が人間となると、予想通りになることはないってことが、どうしても実感として腑に落ちないのでしょうね。
多分、子育てもそれほど関わって来なかったのでは?

女性の方が、その辺の手の抜き加減が上手なような気がします。
子育てなんて、まさに介護と重なる状況だらけ。
子育てで散々経験してたから、『ま、いいか』と上手い具合に諦めがつく。

もっともほとんどの子育て本には、やっぱり『子育てなんて思い通りにはいかないのだから、もう少し肩の力を抜きましょう』ってよく書いてあります。
だから、女性だからって最初から上手に手を抜けたわけじゃない。

それにきっちりしすぎて行き詰まる介護者に女性がいない、ということでは、もちろんないです。
女性だって、最初は頑張ってても途中で心が折れて投げ出してしまう、というご家族さんは少なくないです。

ご自宅で頑張って介護している、ということだけで十分、立派なんです。
大きな問題もなく、日々過ごしている、それだけでいいのです。
だけど、そこに何かの成果を求めてしまうのが、男性の介護者さん、なんでしょうか。
子育てと違って、相手は成長してくれないどころか、日々衰えていく分、不毛かもしれません。

在宅介護を支える一番大切なものが”情け”の心だとしたら、介護の実践に一番大切なことは、”いいかげん”なこと、じゃないか、と思うことがしばしばある今日この頃なのでした。