とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

不器用な愛は微笑ましいけど

前回に続いて、ご主人が介護している別のご家庭。
”昨夜から何も食べないし、朝になっても起きて来ない”
という知らせがあり、往診に伺いました。

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他にも回るところがあって、お伺いしたのはお昼すぎ。
奥さんはお布団に寝ていました。
ご主人が、丼に盛り付けた食事を勧めていましたが、
『朝から何も食べようとしないっ。ないもかいもどうしようもなかっ』
と吐き捨てるように言って、隣の部屋へ行ってしまいました。
(でもこちらを伺っている気配はある)

奥様に声かけすると、小さな声で『具合わるかよ〜』とお返事されます。
血圧や熱といったいわゆるバイタルは正常。
意識もはっきりしていて、少々耳は遠いようでしたが、会話もできます。
『ちょっと起きてみる?』と尋ねたら、『起きる』とおっしゃるので、看護師とふたりで介助して座らせました。
お布団の上でしたが、支えていたら座位にもなれました。
昨晩から食事を摂っていないとの事で、そうじゃないかと思いましたが、やっぱり薬も飲めてませんでした。
介助して、クリニックから処方しているエンシュアリキッド(栄養補助のジュースですね)と薬を飲んでいただき、しばらくしたら、少しずつ動けるようになりました。

この患者さんは、神経系の難病で急に動けなくなることがあるのでした。

急を要する状態ではなさそうでしたので、今から来るというヘルパーさんに、その後を託して、何かあったら連絡するようにと伝え次の訪問へ。

お父さんが勧めていた丼の中身を、帰りしなにちょっと覗いてみると、全体に茶色系の煮込んだものがご飯に乗っていました。どうやら牛丼らしい。
同行の看護師と、『あれじゃ、ちょっと(今の患者さんには)食べられなかったかもね』
と話してて、ふと思いました。

もしかしたらご主人は、奥様に少しでも力をつけてもらいたくて、元気になってもらいたくて、牛丼を食べさせようとしてたのかもしれません。
あまり経済的に余裕のあるお宅には見えなかったので、ご主人としては奮発したのかも。
なのに奥様が全然食べないので、がっかりした結果が、あのそっけない言い方だったのかしら。
病気の奥様にとって、大盛りの牛丼は手に余る食材だ、ということに思い当たらなかったのでしょう。

どちらかというと、戸惑っているように見えました。
奥様も普段は、ゆっくりとならなんとか自力で起き上がれていたとのこと、急に起き上がれなくなったため、起き上がれるよう手を貸す、ということに思い当たらなかったのは、やっぱり男性だから?

あの牛丼は、ご主人の不器用な愛情表現だったのかもしれません。


でもね、不器用な愛が微笑ましいのは、それを受け取る側に余裕があるときだけ、です。

厳しいことを言いますが、いくら一生懸命でも、現実に役に立たない介護は、患者さんも危険だし、介護する方も消耗してしまいます。
この状況が続けば、介護する人の心が折れてしまい、介護ネグレクトや虐待に進んでしまうかもしれません。

何一つ良いことはありません。

心のこもった介護が、一番なのは当たり前です。
でも、心はこもらないけど的確な介護と、心はあるけど役に立たない介護とだったら、前者の方がまだマシ、なんですね。

『できることをできる範囲で』が、介護の基本ではありますが、できることのレベルを支えるのも、介護スタッフの仕事でもあります。
気をつけていかないといけないな、と思ったのでした。