とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

これで良いのだ、と言えたら良いのに


経鼻胃管、という医療行為があります。
読んで字のごとく。
鼻に経由して胃に管を入れることですね。
時々、医療ドラマとか再現ドラマで患者さんが鼻から管を入れられているシーン、みたことないですか。
あーゆーの。

経鼻胃管、昔はマーゲンチューブ、なんて言ってましたっけ。
(今でも、業界用語としてよく使いますかね。時々、若い人からST(Stomach Tube)とか言われてマゴマゴしちゃう浦島太郎です)

さて、その経鼻胃管ですが、在宅でも入れることがあります。
自力でご飯が食べられない人、食べたいけど病気や神経麻痺のせいで正常な嚥下ができない人。
それから、なぜか”胃瘻は非人間的で非道な処置”なので作ってはいけない(*)、という主張を唱える人たちがいて、そういう人に感化された家族が胃瘻は駄目、だけどこのまま食べさせずに看取るのも嫌だから、と入れたりします。

経鼻胃管は、鼻から入れるので、鼻の入口にチューブが当たってるただれやすい。
湿疹ができて、かさぶたが付き、そこが剥がれて出血し、見るからに痛々しい。
それに、鼻から胃まで入れるので50センチくらいは入れなくてはいけない。
そのためチューブが詰まりやすく、胃瘻のチューブより頻回に交換が必要になります。
交換は鼻から。
看護師さんでも入れられますし、人によってはご自分で入れることもある。
看護で年中入れてて慣れている看護師さんは、上手ですね。
自分で入れる人は、ちゃんと理解して入れてますし、自分のタイミングや感覚で入れるのでそれほど苦痛はない、と思うのです。
でも、大抵の患者さんは自分で意思を伝えることもできない状態で、無理やり入れられるのでとても嫌がります。
だいたい、鼻に何かを突っ込むなんて。
お風呂やプールで水が入っただけで大騒ぎ、なのに。

それに、時々、間違って肺に入ってしまい危険なこともある。
そんな経鼻胃管。

高齢の患者さんがだんだん弱っていき、食事を勧めても
『もう、要らん』
と食べなくなり、一日のほとんどを寝ているようになりました。
辛い症状もなく、穏やかな最期を迎えられそう。
と思っていたのですが、介護していた家族はなんとか栄養を入れてください、と。
残念ながら、お腹の手術歴があって胃瘻が作れない方でした。
そうなると、経鼻胃管しかない。

栄養を流し込むようになったら、痩せていた身体もまたふっくらとしてきました。
家族は大満足です。
本人は。。。。。。
どうなんでしょうね、そこまでしてほしい、と願っていたのでしょうか。
鼻の入口は、チューブの刺激で湿疹が出来、そこに鼻水と瘡蓋が混じって見るも無残な状況になりました。
二週間毎の交換は、顔を歪めて嫌がられます。
でも、処置以外の時はすうすう寝ているので、本当はどう思っているのかは、わからない。

チューブの入れ替えの時は、ご家族は席を外してますので、嫌がる様子を見ることはない。
ちょっと、ずるい気もしないでもない。
一方で『どうなんだろう』と思っているくせに家族を説得するでもなく、毎回、看護師さんに入れさせている私も、ずるい。
そして先生の指示だから、と躊躇なく鼻から管を入れている看護師さんは、ずるくないのか?

みんなずるくて、みんな良い。
そんなわけ、、、、ないか。
バカボンのパパみたいに
『これで良いのだ〜』
とあっけらかんと、言えたら良いのに。

爛れていた鼻の入口は保護テープを貼って、皮膚は綺麗に治ってきました。
最近はさらにレベルが落ちたのか、チューブを入れる時の嫌がり方も前ほどではなくなりました。
経鼻胃管で栄養補充をしたからといって、これから何年も生きていられるわけではありません。
けれど少なくとも介護している家族が、納得してお別れができるまで、こうして生きているのがこの人の務めなのかな、と思ったりして。
そして、それを支えるのが在宅医療をやっている者の仕事なのかな。







(*)胃瘻
そもそも、”腹壁に穴を開けて直接胃に管を通して栄養を補充する”という方法は、鼻からの管による本人の様々な苦痛や看護する人の負担を軽減するために考えられたはず、なんですけどね。
実際、経鼻胃管をやめて胃瘻になった途端、顔に付いていた邪魔なものが取れて、『何よりすっきりした』と喜ぶ患者さんや家族は多いです。
鼻から管を入れたら、それが取れないようにテープで顔に固定しておかないといけませんのでね、顔も洗えない。
テープかぶれで皮膚が爛れてきたりもする。
女性だったら化粧もできないし。
気楽に外出もできません。
余計なものを他人の目に晒されないで良い、というのは大きいのです。
私は、別に胃瘻推進派ではありませんが、胃瘻を作る代わりに経鼻胃管を選択する、というのは、意味がない、と思います。