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人口で語る世界史〜ポール・モーランド著

人類の歴史を人口動態に焦点を置いて論じた本、です。
世界史と言ってはいますが、主に近代200年の変化を扱っています。

この本で出てくるのが、フランク・ノートスタインと言うアメリカの学者が唱えた『人口転換論』。
この人口論を一種の公式として、各国や民族の近代史に当てはめていきます。

ちなみにこの人口転換論、調べてみました。

まず近代以前の社会では、乳幼児の死亡率は高く、平均寿命も20代。
たくさん産んでもたくさん死ぬので、人口はほとんど変わる事なく、時には伝染病や戦争、災害で激減してしまうことも。
この段階が『多産多死』
そこに、経済発達や衛生状態の改善&医療水準の向上が関わると、まず死亡率が劇的に下がり、だけどまだたくさん産んでた時代の慣習は残っていてたくさん産む『多産小死』の段階。
やがて、様々な要因により人々は子供を産まなくなり『少産少死』の段階にいたり、人口は一定になり安定。

著者によると、この三段階の過程は国や民族によって、大きく異なり、そのため様々な歴史的変化が生じてきたのだそうです。
例えば、ロシアが日本に負けたのも、アフガニスタン侵攻もうまくいかなかったのも、ロシアが人口減少段階にあったのに対して、対峙した当時の日本やアフガニスタン人口爆発期を迎えていたから、なのだそう。

さらに、今の世の中を主に西洋が支配しているのも、そもそもヨーロッパで人口爆発が世界に先駆けて起きたから。

結局、軍事や経済を支えるのはその集団の人口。
全体の中で、意見の強さを担保するのもその集団の人口。
やっぱりなんだかんだ言っても、人数が多い方が主張も通るし、世の中を牛耳れるんだよね。
と言う話です。

さて、最後の『少産少死』の段階に至る原因として、その集団内の女性が子供を産まなくなるから、と言うのがはっきりしている。てか、今のところ子供を産むのは女性だけなので、女性が産まないことを選択すれば、減るに決まっている。
じゃ、なんで産まなくなるか、と言うと、それぞれ個々の理由が存在するそうなのですが、共通したデータとしては、教育を受けた女性が増えると、出生率が下がると言うものがある。
このデータから、短絡的に考えると人口問題解決の方法は、女子に教育を受けさせなければいいじゃん、と言う結論になる。

でも、ちょっと待ってください。
衛生状態や経済状態の悪い環境では、女性の教育レベルが高いほど、彼女の産んだ子供の生存率は高くなります。実際、後進国でも女子教育に力を入れた地域ほど、乳児死亡率が下がり、平均寿命が上がり、人口が増える。
そしてある程度、家庭の経済力が担保されなければ、産んだ子供を育てられません。
だから人口を増やしたければ、まずは女子の教育レベルと経済力を上げるのが必須条件です。

ある程度増えたのちに、『産む子供の数を減らしたい』と女性が望むのは、その社会が女性に不利な、特に子供のいる女性に不利な環境だからでは無いでしょうか。
人間だって動物なんですから、子供を産みたい、と言うのは本能に組み込まれているはず。
その本能に逆らってまで、産まなくなるのはそれなりの理由があるからだと思う。

実際、自分のことを省みると、若い頃はやっぱり子供は欲しいと思ったし、産んでみたいな、と思ったので産んでみた。
産んでみたら、予想外に可愛かったので、悪く無いかもと思って、もう一人産んでみた。
その辺りで、体力的なこともあったのでしょうけど、自分を取り巻く環境があまりにも、負担が大きすぎて、このままでは自分が保たない、と気がついた。
精神面でも身体面でも本当に、危機感を抱きました。
それで、もう次の子供を持つことは諦めた。

日本の女性が子供を産まないのは、これが一番大きな原因、だと私は思う。

実際、周りを見渡してみても、同僚で子供が三人以上いる人は、大抵、職場の育休制度が充実している+夫の協力が得られるand/or実家のバックアップが充実している、の全てが揃っている人ばかり。
私自身にしても、幼少期は母の実家に同居してたし、母は公務員だったし。

だから、社会が人口を増やしたいなら、女性が子供を産む事が不利にならないようにすれば良い。
先進各国で、出生率が上がらないのは、その環境整備がまだ十分で無いから。
産んでも、コストがかかりすぎて満足に育てられる環境にないから産まない、と言う選択をするのだと思います。
『多産多死』段階では、知識や医療が無くて”産みたくなくても産まないでいられなかった”だけ。

そこを読み違えたら、結果はさらに悲惨なことになります。
ましてや女子の教育機会を減らすなんて、問題外。
と言うのが、私の意見です。

この本の著者も、別に女子教育だけが人口減少の原因だ、とは言っていません。

女の子に教育は必要ない、と言う社会通念の強いイスラム教徒やインドでも、経済の発達とともに一旦増加した人口が減少してきており、それには西洋的なテレビドラマの影響が窺えるそうです。

社会の、特に産む世代の女性の意識のあり方、と言うのは人口問題の大きな要因になり得ます。

例えば、敵対しあうパレスチナイスラエルの女性は、同じような経済、教育レベルの他国の女性に比べて産む子供の数が多いそうです。
大家族が尊ばれる文化や宗教観のもとでは、子供を産まなくなる女性の増加は、そうで無い場合に比べて遅いそうです(それでもやがては増えてくるらしいけど)。



本の構成は十章。
第一章:歴史を作ってきたのは、英雄ではなく人口の増加だった。
第二章:人口が結局、軍事力であり経済力である。
第三章:大英帝国の発展は人口増大ありきだった。
第四章:そして、イギリスに遅れて猛追するドイツとフランス。両国とイギリスとの間に生じた緊張が世界大戦を引き起こします。
第五章:『少産少死』の段階に入ったドイツで、事態を改善するためにヒトラー優生学を導入した結果、失敗。
第六章:人口転換論の当てはまらなかった国アメリカの、第二次大戦後のベビーブーム。
第七章:一方、ロシアではどうだったか。冷戦時代の東欧諸国ではどうだったか。
第八章:西洋に遅れて人口爆発を経験した日本、中国、韓国。
第九章:只今、人口爆発を経験しつつある中東と北アフリカ
第十章:今後、人口増加を経験することになりそうなサハラ以南のアフリカの問題。さらに、今後地球規模で起きてくるであろうこと。

最初の方は西洋史が中心なので、人口転換論を知っている人は、最初は飛ばして後半から読んでも面白いと思います。

中東やアフリカで紛争が頻発しているのは、若い世代が多いからであって、老人の割合が増えること自体は、悪いことではない。
その国の経済状態、衛生状態がよくなっていると言う指標でもあり、老人が増えるほど、子供の数が減るほど、戦闘を忌避しがちになり平和的になっていく、と言う話も書かれていて、そう言うものか?とも思う。

日本については、その特殊事情がほぼ一章を費やして述べられている。
著者によると、日本は島国で移民が少ない、と言う特殊事情のせいで、人口が減りはじめてからのスピードが速すぎて、『少産少死』の段階をスピンオフしてしまい『少産多死』と言う別の状態に入ってしまったとのこと。
現実的には、30年後、ちょうど私が80歳の頃には生産年齢にある人と彼らに養ってもらう年寄の比率が1になるらしい。
若い世代のお荷物にならないために、個人的出来そうなことって言ったら、孫の世話をすることと同時になるべく長く働いて自分の食い扶持は自分で稼ぐこと、くらいしか思いつかないな。

ヨーロッパで、そこまで出生率が急激に下がらなかったのは、単に移民や旧植民地の人たちがせっせと移住してきたから。
だから、国の人口としては安定していたとしても、その構成は変わってきている。
そしてそうした移民政策の問題点が、ふつふつと出てきているのが昨今のヨーロッパ。
だからこそ日本の少子化対策に、単純に移民奨励政策をすれば良い、とは著者も述べてはいない。

”間引き”という言葉や、”草食系男子”という現象にもしっかり言及されていて、日本に対する知見はかなりのものと、お見受けします。

とは言うものの、人口問題の対処法は日本独自で考えないと、あきまへんで。
西洋の人口転換段階とはレベルが違うから、参考にならんかも。
何しろ世界に先駆けての現象だから、先例がないもんね。
と割りに冷たい。
最後に、楽観的にテクノロジーの進歩でなんとかなるかも、とは言ってくれてますけど。

中国や、インドの産児制限政策が、いかに残酷なだけで無意味だったか、かなり突き放して論じているのは元宗主国だからかしら。
ちなみに、中国やインドも日本と同じく『少産多死』の段階に入りかけている、と思われます。

今後は地球規模で言うと、中東やアフリカで人口爆発があった後に、減り始め、人口は静止化すると。
ただ、それまでに一体何が起こるかは、全く予想がつかない。

結局、時の流れに身を任せて、なるようになるしか無いのか、という気分にもなってしまったのでした。