とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

消える男


現在の私の職場は、在宅医療専門のクリニック。
なので、普通のクリニックと違って私たちの方が患者さんのお宅に出向きます。
訪問に出るのは、毎朝十時と決まっております。
その十時までの間に、その日の診療予定の患者さんのカルテをチェックしたり、往診時間の連絡をしたり、前準備をします。
前回の診察時に新しく処方した薬の効果を確認するとか、あるいは休止した薬のその後を確認するとか、電話で相談のあった症状についてその後、確認することがないか、など、などなどなど。

私なぞ、未だに、クリニックの患者全員を把握でいてないうえに、よっぽど特徴的な症状があるとか個性がある人以外は、いろいろな患者さんがごっちゃになってしまうので(だいたいが、似たような疾患や症状の高齢者の方達なもので)毎回、カルテを読み込んで、前回からの経過をチェックしないと、仕事になりません。
ついでに、手のかかりそうな(もとい、対応が難しそうな)患者さんについて、その日一緒に回る看護師さんと、簡単に作戦計画を練ったりしてます。

同僚の面倒臭さ男(*)先生は、カルテチェックなどしないスタイルだそうで、だいたい十時前にご出勤されます。
診療スタイルは人それぞれですし、それについては別段何も言うことはない。


(*)Dr.面倒くさ男は、去年の夏に院長が体調を崩して入院になった際には、代わりのオンコールは『最初の契約に無いからしない』と言い張った挙句、かと言って、私がその分のオンコールをすると、自分との回数に差が出るから、月々のオンコールの回数は同じにするように、とクレームをつけてきたり、日々の診療では、自分が診察したことのない患者の急変対応はしない、と言ったり、かと思えば同じ患者ばかり診るのは嫌だと言ったり、この家は行きたくない(誰だって行きたくない家はある)とごねたりと、色々と面倒臭い人物。
以前、何気ない会話(と、私は思ってた)で突然キレられたこともあり、私はなるべく関わらないようにしております。


ただ、クリニックでは朝のカルテチェック以外にも、仕事があります。

9時くらいから、前日の採血の結果をチェックして、治療の指示を出す、と言う仕事です。
大方は、定期の採血結果の確認や、治療中の患者さんの状態のチェックと投与薬の検討です。
今までは、院長がしていました。

が、院長が体調を崩して日常の診療に関われなくなって以来、副院長が主にやっています。
けれど彼女が休みの日は、その他の誰かが、やらねばなりません。
もともとは、面倒くさ男先生が依頼されていたのだそうです。
しかし、彼は出発間際ギリギリにやって来る社長出勤。
それで、必然的に私に仕事が回ってきてました。

採血データのチェック自体は、別に嫌ではないのです。
専門外の項目の時は、改めて調べたりしないといけないけど、まあそれはそれで勉強になりますし。
ただ、その時間はどうしてもカルテを読み込む時間が取れなくなるので、そこが難。
以前、『時間確保のために、どちらかの作業を早めに開始してはダメか』と交渉したのですが、担当の看護師さんの仕事の流れが決まっている、とのことで、却下。
私だけわがまま言うわけにもいきませんから、なんとか都合をつけていたのですが、採血チェックが回ってくると、なんとなく気が重かった。

さて最近まで、出勤が十時というご身分だった面倒くさ男先生ですが、このほど監査が入って、勤務時間帯について指摘があり、
『他のスタッフと同じく、九時には出勤するように』
と院長から言われたそうな。

だから最近は、九時には出勤はする。
けど、やっぱりカルテを見るわけでもなく、出発までは、医局でスマホいじってます。

そして九時前後になると、絶妙に姿を消す。
(ちかくのコンビニで、優雅にカフェタイムを過ごしているらしい)

担当予定の患者さんのカルテを見るわけでもなく、医局でスマホ動画見ているだけなんだから、採血の結果見るくらいは、やってくれたらいいのに。
と、やっぱり思ってしまう。

今朝も、カルテをチェックしている最中に
『すいません、採血チェックと指示出し、お願いしまーす』
と声をかけられ、
『面倒先生は〜?さっき医局で見かけたけど?』
と、ついつい、言わずもがなな事を言ってしまう、我ながら器の小さな私。
『いやー、どこかに消えちゃってー』
との返事に、
『ああ、やっぱり。聞くだけ無駄だった』
と、思い知るのでした。