とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

サイレント・ブレス〜を読んで

在宅訪問診療のクリニックに勤めることになってさぁ
と妹に言ったら、お姉ちゃんと同じ仕事しているお医者さんが書いた本だって、とくれました。

体験談系の本かな、そういうのはいわゆる”いい話”しか載ってないからな、と思ったら、普通に小説でした。
それも大学病院に勤めていた若い女医が、教授の差し金で訪問診療のクリニックに左遷(?)され、そこでの出会いや診療を通して成長していくという、赤ひげの現代バージョン風の小説。

作者は、実際に大学病院の勤務医から在宅訪問診療医になった本職のお医者さんだそうです。
ふーん。

一読しての感想。
1日に在宅訪問5人の診療で、採算取れるっていいな。
午前中も数人しか診察しないんだよね、でもって、検査も何にもしないんだよね。
小説の最後のシーンで申し送りされているのは、33人の患者さん。
ということは、ここのクリニックでは、通常業務でそれだけの人数しか診てないってこと?
それで経営が成り立つ*のは、大学の付属クリニックだから?
補助でも出てるんやろか?
主人公やスタッフの給料は、どこから出ているのかしら?
すみませんね、下世話なとこばっかり目がいって。

患者さんに『タバコ吸ってもいいですよ』って言うだけで、『すごい不良ドクター』で『大丈夫かなこの先生』と言われるって、いつの時代のどこの世界の在宅医?
などなど、突っ込みどころがたくさんありました。
多分、一般の人にわかりやすいように、少々話を作っているのでしょう。
お医者さんが思う、一般の人が思っているお医者さんってこんな感じだろう、というお医者さんのお話、ですね。
ややこしい。

ただ後半の、主人公が自分の父親を看取るところは、けっこうリアルで良かったと思う。
なんども死を看取ってきても、やっぱり身内となると話が違うこと、頭ではわかっていても、やっぱり迷いも希望も持ってしまうこと、そんな部分が。

文章も読みやすくて、感じが良かったです。
多分、業界人じゃない人が読んだら面白いのかもしれません。
実際の現場にいる身としては、う〜ん、なんか違うんだよな〜、というのが実感です。



経営が成り立つ*
聞いた話ですが、在宅訪問専門クリニックの場合、だいたい看護師さん一人、事務さん一人、医者一人で、初期投資ほとんど無しで始めたとして、ギリギリやっていけるラインが月に患者100人、だそうです。
一日20人を週に5日、コツコツ診療に回ってちょうどですね。
一般の開業医さんは、診療科によりますが、流行っているところだと1日100人くらいは診るので、大したことなさそうですが、訪問診療だと患者さんのお家へ行くまでの移動時間も入ってますから、1日20人はかなりきつい。
地方だと距離も長くなりますから、お昼ご飯抜きとか、移動中の車中食で頑張っても、夕方6時に帰れるかどうか、ですね。
クリニックに戻った後も、仕事はある。
患者さんの状態を、クリニックだけでなく、訪問看護ステーションのスタッフ同士で申し送って把握しておかないといけないし、緊急の往診にも対応しないといけない。
翌朝の往診の予約の確認も大事、です。
(もちろん、診療中に臨時で往診が入ることなんかも年中)
様々な雑務をこなして多分8時に帰れたらいい方かも。
それに癌の終末期の様に毎日往診に行く場合もあるので、もう少し多めに診てないと厳しいかな。
もちろん、在宅訪問診療は24時間対応、が原則なので毎日がオンコール、週末も当番医状態です。
独りでやっていたら、心とか身体とか、色々な意味で”折れそう”です。

ちなみに、私が務めているクリニックは月に700人の患者さんを診ている。
夕方はだいたい5時前にはクリニックに戻りますが、それは看護師さんや事務さんには、そのあとの雑務があるから。
全部終わって帰るのは8時くらい。
時には9時、10時までかかるそうです。
オンコールは3人で持ち回りですが、院長が一番やってる。
そして、東京の大手だと、月に2000人診ているところがあるそうです。
大学病院の入院患者数がだいたい700から800なので、比較してもすごい数、になりますね。