とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

看板に偽りあり

先日、往診に行った施設でのこと。
もう百歳近いその方は、最近は傾眠傾向となり、ご飯ももうあまり食べません。
栄養補助としてエンシュアリキッドを出しているけど、一日一本飲むか飲まないか、だそう。
褥瘡も、出来てなかなか治りません。

とはいえ、往診を依頼されても、褥瘡に対する処置を指示するくらいしか、することはないのです。
だけど、施設の職員は言います。
『このままでいいんですかね、どこか病院に入院させたほうがいいんですよね』
そして、遠回しですが言外に『どこかに入院させろ、紹介状書け』とほのめかしてくる。

百歳近くですよ。
これって自然の経過、と言って良いと思うのですけど。
どんな生き物だって、生きている以上は最期がくるもの。
大きな病気もせずに、うとうとと眠っている時間が増えて、そうこうするうちに、やがてふっとロウソクの火が消えるように息をひきとるなら、それを大往生と言わずしてなんと呼ぶのでしょう。
でも、この施設ではそれじゃダメらしい。
ご飯を食べないなら、点滴。
でなきゃ、ご飯を食べるようになる薬をなんか処方してください。
(そんなものはない(-"-;))
それがダメなら、入院させて、と言うのです。
要は、このまま施設に置いとかないで、うちじゃないどこかに回してください、と言うこと。

ご本人はもう意思疎通も難しいので、希望を聞きようがありません。
ご家族は、遠縁の、ほとんど血の繋がりもないような親戚のみ。
しかも県外にお住まいです。
家族は、本人が馴染んだその施設でのお看取りを希望ですが、施設に預けっぱなしの引け目からか、施設の判断で病院に搬送しても言い、と言っているそう。
(だから入院させて、と言うのね)

ここの施設、一応『最期の看取りまでします』と、表向きは言っているそうです。
ちゃっかり、看取り介護加算ももらっているらしい。

でも実際は、
弱っていく利用者さんの存在に耐えられない。
亡くなっていくのを受け止められない。
そんな職員ばかりだそうです。
そして職場がそんな感じなので、思い切って『頑張って看取りまでしてみます』と言う職員も出てこない、のが現実。
そして、介護職員の離職率の高さは誰もが知るところ。
ちょっと気に入らないとすぐ辞めてしまうので、引き止めたいのか上も強く言わない。
と言う状況で、利用者さんは、最期はどこかの病院へ送りこまれ、そこで亡くなるのだそうです。

世間では、『医者が死にいく人を診ようとしないのだ』『医者は治る人しか相手にしないじゃないか』と言いますが、現場を見ていると、死にいく人と向き合おうとしないのは、むしろ医療関係者でない人の方が多いような気がする。
最期の面倒なところを、病院に押し付けてくる風潮があるのは、むしろ院外の世界のような気がします。

そりゃね、誰だって人の死ぬのに立ち会いたくはない、と思いますよ。
だけど、それが自然の摂理なら、やっぱり覚悟を決めて受け入れることも、大切だと思う。
誰だって、いつかは順番が回ってくることです。
その誰かになる、あえて引き受ける。
いつもやって、とは言いません。
でももし機会があったら、できる範囲で引き受ける、それくらいのことは、介護職である以上、覚悟していても然るべき、だと思うのです。

それを手伝わない、とも言っていません。
『やります』『やってみます』と言ってくれるのなら、そのサポート体制も整えるのが、在宅クリニックとケアマネージャーの仕事でもあり、腕の見せ所でもあるのですから。
だから、事あるごとに『うちがサポートはしますから、頑張って看取りまでしませんか』と言ってはいる。
実際、それで看取りまでちゃんとみてくれる施設もあります。
最近は、癌の患者さんでも緩和ケアも含めてみてくれるところもある。
やれば、出来る、ものなのです。

介護の仕事は、割と簡単に始められる仕事ではあります。
中には、家族が倒れて否応無しに介護をする人だっています。
けれど、時には人間の最期に関わる、と言う深い仕事でもある。
表向きは綺麗事を言っているくせに、いざとなると嫌なことから逃げて知らん顔、と言うのは筋違いじゃないか、とつい思ってしまうのです。

こんな施設に、パンフレットの文言だけを頼りに入居してしまった利用者さんは気の毒です。
家族がいよいよとなったら引き取ってくれる、と言うならまだしも、そんな風に引き取ってくれる家族などそもそもいない、初めから身寄りのない人ばかり。
経験がないから、怖いから、と嫌なことをよそへ押し付けようとする人は、自分の最期も同じように適当にたらい回しされても良い、と思っているのでしょうか。

いくら新しくて綺麗な施設でも、そんな対応しかしてくれないことがはっきりしてくると、寒々として監獄のように冷たい場所に見えてしまうのでした。