とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

ノマド〜漂流する高齢労働者たち

アメリカでリーマンショック後に増えてきた、ワーキャンパーと呼ばれる高齢労働者たちについて取材した本です。

未来の日本を予見するノンフィクション、と帯にある。

先日、『未来の年表2』を読んで、働けるうちは働かないとね、という結論になったけど、実際に働くことになったとして、どんな働き方をすることになるのか?
参考になるかもしれないと思って、読んでみました。

ただ、内容は全くハッピーなものではありません。
むしろ、低賃金で長時間のきつい肉体労働を、ただただ生き延びるために続けなくてはならない高齢者たちの現実の生活が語られています。

著者は、実際に自分もキャンピングカーを購入し、三年もの間、取材対象者と生活を共にしながら、アメリカ全土を渡り歩き(実際には車移動だから歩いてはいないけど)、最後にはアマゾンで彼らと一緒に短期間労働者として働きます。

そうした実体験から書かれたノンフィクションだけに、そして、話を面白くするために”盛っていない”だけに、現実の厳しさがひしひしと伝わってくる。

アメリカで、仕事を求めてオンボロ車で大陸を旅する労働者達というと、スタインベックの『怒りの葡萄』が思い浮かびますが、現代の葡萄たちは貧しい農民家族ではなく、今まで中流の生活をしてきたはずの高齢者達です。

本は、取材対象の一人で、ほぼ全編を通して出てくる、いわばもう一人の主人公ともいうべきリンダ・メイという女性の生活を語ることから始まります。
このリンダさん、写真が掲載されているのですが、なかなかにタフそうな表情のおばあさんです。

シングルマザーのリンダさんは、現場監督や長距離トラックの運転手などといった仕事をこなしながら、二人の子供を育て上げました。
残念ながら、公的年金だけでは暮らしていけず、ギリギリの生活を続けたせいで老後のための蓄えもなく、そして歳をとったら仕事がない。

それで、キャンピングカーに乗って、アメリカのあちこちを渡り歩きながら、老いた身体できつい肉体労働を続けている。

全米で四百万人ほど、同じような高齢労働者がいるらしいです。

多くが、リーマンショックで、仕事と蓄えを失った人たちだそう。
定年という概念がないアメリカでは、働き続けることは当たり前、だけど歳をとると条件の良い仕事はない。
資格や経験が無いと出来ない仕事はもちろん、そういうものがあっても体力や医療保障の面で条件が合わずに、採用してもらえない。

そうして蓄えが尽きてしまい、家賃や家のローンが払えないとか、離婚して処分せざるを得なかったとか、様々な理由で車生活に入るのだそう。
アメリカは公的年金は本当に少なくて、転職も多いから企業年金もあまりなくて、その代わり401Kという自分で積み立てる投資信託があるのだそうです。

日本でも年金問題でもめた頃から、出てきましたね。
年金をお役人任せだから良くないだよね、ちゃんと自分でも増やさなきゃ、駄目じゃん。先進国アメリカでは、普通の人達がやってるんだよ、みたいなノリだったと思う。
でも本書では、政府の国民に対する許しがたい責任放棄の象徴、として語られてる。

確かに投資のプロでもない素人が、片手間に投資をしても、よっぽど運が良くないと、それほど利益は出なさそうです。

実際、せっかくの蓄えがリーマンショックで消えてしまい、その結果が、本書に出てくる生活、という高齢者が、たくさん出てきます。

彼らは、もともと学歴が無い低所得層の人たちではなくて、むしろ学歴も職歴もしっかりした人たちです。
元公務員だったり、IT企業の重役だった人もいる。
リンダさんも、大学を出ていて専門職に就いてたこともある。
だけど歳とると“賞味期限切れ”ということで(耐用年数切れ?)、レイオフされて、仕事が無い。
アメリカは転職も多くて、働き方に流動性が高い分、リスクも高いのですね。

ただ、本書に出てくる高齢者たちは一様に、明るい。
前向きだし、コミュニケーション能力高くて、お互いに情報交換してる。
その辺りが、アメリカ人らしい。

常に明日は理想の地にたどり着ける、と信じて移動を繰り返している。
車に寝泊まりしながら、行きたいところに行く。
そんな自由を愛している人もいます。
著者自身、取材生活が終わりアパートに戻っても、ふとキャンピングカーで過ごしていた日々が懐かしくなる、と告白しています。

なんだかんだ言って、アメリカ人って元々は移民の子孫。
数世代前には故郷を離れて何日も狭い船や幌馬車に揺られて移動してた先祖がいる。
それに。アメリカの人って気軽に転居するから、住み慣れたところを離れるってことに、あまり抵抗なさそうです。

ただ、著者も触れていましたが、アメリカの車中生活者のほとんどは白人。
黒人や他のエスニック出身者は、夜間に車中にいれば、警察に射殺される危険性、地元住民に襲われる危険性があるので、車中生活者にすらなれないらしい。

とはいえ、日本人が日本で車中生活する分には、危険はなさそうです。
さてこの状況が、いずれ日本でも当たり前になることがあるのかしら?
少子化で人が住まなくなった地方の、何もない辺鄙なところに工場ができて、忙しい時期だけ、そこに自前の家でやってくる、つまり住居の提供がいらない労働者がやってくる。
企業にとっては、美味しい話かもしれません。

家を持っている、と言っても、周りが空き家だらけで治安が悪くなり、二束三文で手放す、あるいは不便すぎて住めなくなる、ということもあり得る。
『未来の年表2』でも触れられていましたが、人手が減って山林の災害が増える可能性がありますし、最近ニュースで、道路や橋の修復に問題が生じつつあると言ってましたし。
地震や災害で、家や地元に住めなくなる(鹿児島には川内原発があるしね)、その時に国が住む場所を提供してくれる、という保証はない。

湿った日当たりも悪いようなボロアパートしか住むところがなくて、法外な家賃を請求される、なんてことになったら、私でも、まだ車で寝泊まりの方がまし、と思うかも。

居住性の良い車を入手しておく。
車中生活に使えるノウハウを、身につけておく。

できる対策としては、そんなところでしょうか。
ちなみに、キャンピングカーを使わずに車中生活をするなら、オススメはプリウスだそう。
エンジンかけっぱなしでも、ガソリンを無駄遣いせず冷暖房してくれて、電気も使えるから、だそうです。