とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

セレモニー〜王力雄 金谷譲訳





先日読んだ、『幸福な監視国家・中国』の中で紹介されていた本です。


分野としては、SFになるのでしょうか。
今回のコロナウイルス騒ぎを、まるで予言するかのような内容が、取り上げられています。
今のタイミングで読むと、なるほど、かの国ではこのようなことになっているのかもね、と思わずにいられない。

中国の近未来というか、パラレルワールドのような世界の話。

ここでも一党独裁で、主席がトップに君臨。
今よりもさらに進んだスパイ技術が投入されて、国民は知らず知らずのうちに情報操作され、私生活を監視されています。

国民が使用する靴は全て、ナノテクノロジーを利用した認識と追跡可能な装置が組み込まれ、さらに、会話も盗聴されている。
靴の持ち主は、どこに逃亡しようとも、すぐに居場所が突き止められてしまいます。


もっとも、日本人はわりと日常的に靴を脱ぐから、日本ではあんまり有効じゃないだろうな。


主人公の一人、李博はスパイ装置の主任開発技術者。
政治にはとんと興味のない、研究一筋の研究者でした。

北京市疾病予防センターに勤める医師の妻・伊好とともに、高学歴セレブカップルとして、娘にも恵まれ、時々、大手靴メーカーの社長から利権がらみの接待を受けたりしつつも、それなりに幸せに暮らしていました。

そこに、出世欲でいっぱいの元公安警察官・劉剛が現れます。

出世のためなら手段を選ばない劉剛は、公安でかつて使用されていた特殊な装置を使って、伊好を一時的に洗脳。

新型インフルエンザのデータを捏造して、業績を得ようとします。

下っ端役人がいかにして、上層部に意見を聞いてもらうか?
中国ならではの官僚社会の仕組みが、面白い。

彼の思惑に、官僚を支配したい主席の意向が合致して、事態はおかしな方向へ転がり出します。

官僚にとって、実績を上げること=数字を上げること。
個々の人々の事情は、考慮されません。
さらに中央が出した、達成数字ありきの目標のせいで、保身に走る官僚たち。

行きすぎた防疫運動のせいで、農村や地方都市の封鎖が起こり、人々がパニック状態になり、社会不安から暴動が起き、軍が出動する騒ぎに。

そしてその結果、ありもしない新型インフルエンザの流行が、世界的な騒ぎとなり、WHOの介入するところとなります。

WHOの介入で、ウイルスに騒がれているほどの感染性はない、とわかり、感染騒ぎはいったん収束します。

しかし、今度は防疫運動失敗の責任を負わされそうになって、切羽詰まった官僚・老叔と劉剛が、李博を巻き込んで、主席を暗殺。

ロボット蜂を利用した暗殺方法とか、本来とは違う目的に使用されている洗脳装置とか、近未来のアイテムが色々出てきて楽しい。

政敵に先んずるために、老叔は党の記念式典を乗っ取ってクーデターを決行。
主席暗殺をうやむやにしつつ、政権を掌握しようとします。

現場で動く官僚や技術者、兵士たちは、真実や正義の追求よりも、誰の下についたほうが有利か、を常に行動原理としている。

トップを争う老叔と旧権力者たちとの間に、熾烈な権力闘争が勃発。
ブラフ合戦が行われます。

主席暗殺に巻き込まれた李博は、どちらのグループからも、追われる立場になってしまいます。

一方、国際社会的には、主席暗殺と老叔のクーデターのおかげで、皮肉なことに、表向き中国は一気に解放され、民主化されることに。

しかし、地方都市部と北京とは分断され、その上、自治区が独立宣言をしだして、中国は大混乱。

中国って、地図で見てもすごく大きな国ですが、その実、モンゴル自治区ウイグル自治区チベット自治区といった、漢族でない民族の地域も広くて、彼らが独立すると国土が半分になってしまうのですね。

遅ればせながら、改めて地図を眺める。
なるほど。

最後、事件の真相を知る李博は、家族を守るために、自分の記憶を破壊します。

ハリウッド映画だと、どこからともなくヒーローが現れるか、李博が粘って一発逆転を狙って生き延びるかするのでしょうけど、そこは東洋人だな。

中国は、またもや独裁者に支配される社会へと戻っていきそうな気配のまま、ストーリーは終わります。

この本に書かれている世界が、本当の中国そのものではないのでしょうが、中国という国の一面をなんとなくわかったような気がする。

小説では、緻密に組織作られた監視国家がいかに崩壊していくか、をテーマに描かれているので、インフルエンザの部分は、前半だけですし、そもそも、さほど感染力の強くないウイルスの感染力を盛ったことが、騒ぎの始まりでした。

現実は、むしろコロナウイルスの感染力と病毒性の評価を誤り、さらに隠蔽しようとしたのが、事が大きくなった元凶らしい。
でも現実でも軍が出動したり、町が封鎖されたりと、同じような事が起きています。

今回のコロナウイルス騒ぎの内幕が、そこはかとなく伺えるような気も、したのでした。