とりあえず始めてみます老いじたく

ねんきん定期便をきっかけに老活してみることに

認知症の取扱説明書

認知症についてお医者さんが書いた本です。
認知症の本はそれこそ、介護体験記から専門書まで数多くありますが、この本の良いなと思う点は、神経内科や脳外科の専門医ではなく眼科が専門のお医者さんが書いた、と言うところ。

認知症は要は脳の機能の経年劣化なので、脳神経を専門としているところが多く扱っていますし、実際、診断も脳外科や脳神経内科でします。
でも、そう言った専門機関だと得てして診断や治療に重点が置かれがち。
まあ、それが当たり前と言えば当たり前、何ですけど。
ただその分、日常生活で現実に起こっている困りごとに対しての理由やその対応方法についてはあまり具体的でない。

その点、この本の著者は眼科が専門で、高齢者の目の病気を診ているうちに必然的に認知症の症状に詳しくなった結果、本を執筆するに至った、と言う経歴の持ち主だけあって、認知症あるあるの具体例が出てきます。
対応策も、”割と”現実的。

ここで”割と”を入れてしまったのは、結局、認知症は長生きすれば遅かれ早かれ、程度の差はあれ誰にでも起こりえることなので、絶対に起きないように予防する、とか、良くなるように治療する、と言うことは不可能だからです。
嗅覚障害や、味覚障害を予防するために亜鉛をとりましょう、とか、いつもクンクン匂いを嗅ぐ癖をつけましょう、と言うのはやって悪くはない、でしょうけど、完璧に予防できるわけでもない。
そこは、まあ、著者が悪いのではなくて認知症の特徴がそうなのですから、期待しすぎるのはお門違い、というもの。

ですが、認知症患者さんがとる困った行動について具体的にどう言った機能低下が関係しているか、とてもわかりやすく書いてあるので、現実に認知症の介護をしている人には腑に落ちる点が多々あるのではないかしら、と思います。

さらに、今はしっかりしていてもいつかは認知症になるかもしれない親世代を抱える子世代にも、『こんなところに気をつけて、早めに対処しよう』というポイントがいくつも載っていて参考になりました。

本書では、大部分の章で認知症の患者さんでありがちな『困った行動』を挙げ、その原因と対策を述べられています。
最近話題の高齢者による交通事故についての章は、興味深かったです。

あとは、高齢者向け、とうたっているグッズに限って高齢者には使いにくいことや、スマホiPadのような新しいものも、使わせてみれば、高齢者でもしっかり使いこなせる、と言う話。

確かに、うちの母も難聴が進みすぎて大音量で携帯が鳴っているのに全然気づかず、これでは街中や電車の中で周囲に迷惑だから、と言うのがきっかけでiphone+fitbit(*)にしたのですが、最初の頃こそ色々手助けが必要でしたが、今ではいっぱしに使いこなしている、ようです。
しかも、最近の補聴器はスマホに連動して聴こえやすい設定にできるらしく、スマホ経由だと普通の電話より会話がしやすいことも判明。
(その代わり、補聴器を装着していないとかえって聴こえない)
便利な世の中になったものです。

また認知症の対応策も、周りがやってしまいがちな”良くない対応策”と”理想とすべき対応策”がそれぞれ書いてある。
この本のいいところは、場合によっては”それは理想だけど、現実には無理”な対策もあるよねと、はっきり言ってくれるところ。
結局は、”できる範囲でしか出来ない”と割り切りも必要。
そのあたりも、実際に認知症の患者さんと向き合ってきた著者の真摯な態度が伺えます。

後半は、認知症の家族を介護するにあたってのお金の問題にも触れられています。
これって実際、在宅医療の現場でもよく遭遇する話です。
お金が全てじゃないけど、お金で解決できることもあるし、そうしてその場しのぎでやり過ごせることで、続けられる介護もあります。

認知症になって起きてくる困ったことの多くは、排泄関係。
眼科の先生ならではの視点からのアドバイスが、なかなかに目から鱗でした。
実母も義母も、今の所独りで頑張ってくれていますが、この先はどうなるかわかりません。
今からできることはなるべくやっておこう、と思うのでした。

(*)iphone+fitbit
別にAndroid携帯でもいいのだと思うのですが、我が家はたまたま妹一家も含めiphoneユーザーが多かったので、iphoneにしました。fitbitは、第三世代のものです。
お風呂以外はずっと身につけているので、着信があると腕に振動が来て、すぐわかって便利だし、歩数計にもなるし、心拍数も測れるし、と結構喜んで使っています。
これで、心電図も測定できるようになったら、私も買おうかなぁ。


本書の前作、老人の取扱説明書。
認知症の〜』とかぶる点が多いですが、高齢者がなぜ高額の商品を買ってしまうか、などの心理的なことが書いてあったりして、認知症というよりお年寄り全般とのおつきあいの仕方というか心がけが書かれています。
実際に高齢者を介護している、などの切迫した事情のある人は両方読むとより理解が深まるかもしれません。
どちらか一方なら『認知症の〜』を読んで、他の著者の本にも目を通すと良いと思います。